先日、異業種のプレイヤーを招いたトークイベント「BAKE THINKS」を開催しました。
記念すべき第一回のゲストは「Soup Stock Tokyo」やネクタイ専門ブランド「giraffe」を手がける株式会社スマイルズさん(以下スマイルズ)。
そして「青山フラワーマーケット」やグリーンを活かした空間デザイン、青山フラワーマーケットTEA HOUSEの運営を行う株式会社パーク・コーポレーションの「parkERs」さん(以下、parkERs)。
「妄想と科学でブランドをつくる」をテーマに、BAKEも交えて各社の事例や知見を語ったのだが……
「スマイルズの開発必勝法は見つかっていません。だからn=1を考え抜く。」 「parkERsは”観葉植物ってなんかいいよね”の壁を超えたい。AIで感性を科学する。」 「BAKEは差別化よりも、8割主義。自分はいい意味で、永遠の素人。」
と、三者三様のブランドづくりや企画術があるようだ。
それぞれどんな「妄想」と「科学」が飛び出すのか。ブランドづくりにおけるヒントを見つけるべく、さっそくレポートしたいと思う。
スマイルズの事業はノー科学、妄想だけで生まれています。今回は妄想と科学でブランドをつくる、というテーマなのですが、とことん「妄想」を深掘りします!
【本記事でご紹介する内容】 ・開発は「自分はこれがいい」を考えることから ・やりすぎることが、すべての仕事の最終定理 →soup for spoon開発の事例 ・コンセプト<イメージ、イメージできたものは具現化できる →100本のスプーンの事例 ・全く新しいより、“こんなの〇〇じゃない”と言われる方へ →ネクタイブランドの事例
私はスマイルズでクリエティブディレクターとして店舗、空間、広報、WEBなど、事業開発全般を統括しています。信条は「これでいい、じゃなくてこれがいい」。
顔の見えないマーケティングデータやアンケート調査には頼りたくなくて。たとえば自分や家族に置き変えると、妄想はぐっと鮮明になります。「これつくったら喜んでくれそうじゃない?」という企業側の一方的な妄想から離れられるんですよ。こういうリアルな妄想をすごく大切にしています。
特に新規事業では大多数のニーズを考えるより、確実に存在するN=1を考え抜きたい。N=1があったらN=2があるかもしれないからです。
ここからはスマイルズの企画・開発の”3つのスタンス”についてお話しましょう。
1つ目は商品開発の根底から。
これは”やってる人”が”やっていない人”より、何者かになりうる可能性が高い。例えば野球選手のイチローさんは、素振りもトレーニングも人一倍やりこんでいます。だから彼自身が活躍するのは、当然の結果なのだとインタビューでも応えるほどです。唯一絶対の真実は、やったかやっていないか。
Soup Stock Tokyoのスプーンをオリジナルデザインに切り替えるとき、とにかく圧倒的にやろうと。2年間とにかくスプーンを集めてスープを食べました。するとある時、見えてくるんですよ。100本くらい食べた時でしょうか、すくいごこち、ほおばりごこち、握りごこち、食べ心地……。
完成したスプーンはグッドデザイン賞にも選ばれました。方法は何でもいいんです、本気で”やりすぎる”ことで、届く到達点があります。
2つ目は商品の改善について。
「100本のスプーン」は現在2店舗を展開するファミリーレストランです。二子玉川店オープン時のリブランディングと、商品開発の事例をご紹介します。
当初、「Soup Stock Tokyoがファミリーレストランをやったら」というコンセプトでスタートしましたが、なかなか良い反応がもらえず伸び悩んでいました。
お客さまにとって、本当に意味のあることは何か?いったんコンセプトを脇において、妄想を膨らませる。妄想から具体的なイメージを拾って、商品や店舗デザインに落とし込んでいきます。例えば……
ファミレスの良さはメニューがたくさんあること。
↓少しずつ色々食べられる「リトルビッグプレート」が生まれました。
子供にとってファミレスははじめて行く外食で、きっと大人と同じものが食べたい。
↓全てのメニューにフルサイズと、ハーフサイズを取り揃えました。
他にも、ファミレスは子どもを子ども扱いしているな、という気づきから、プラコップではなく大人と同じガラスのコップをご用意しています。
ウェブサイトから見るリブランディングの事例について、過去にTHE BAKE MAGAZINEにてご紹介しています。 ▶「100本のスプーン」に見る、顧客体験の変化を生むチャネルとは
3つ目は、どんな領域に注目しているか。
最初こそ「こんなのネクタイじゃない」と言われたネクタイ専門ブランド「giraffe(ジラフ)」。事業化してからわかったのですが、ネクタイは斜陽産業だそうです。
斜陽産業はチャンスです、新規参入する企業がいない、つまり競合が増えませんし、すごくいい。「giraffe」は7年目にしてやっと黒字化しました。
あとは、レッテルをはられている商品も注目しています。たとえば「海苔弁」です。2017年にGINZA SIXにオープンした海苔弁専門店「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」。
一般的に、のり弁は一番安くてちょっとジャンキー、おいしいのにどこか肩身が狭そうな存在だと思っていて。のり弁のようにレッテルが貼られてる商品こそ、努力が価値として最大化しやすいんです。
トレンドやマーケティングをふまえたアイデアや事業って、ありがちになりがち。価値になりにくいから、僕たちは流行り物に興味がなくて。それに、トレンドを追ってしまうと、頭のいい企業さんには敵わないです!(笑)
本当か?!と、疑われるかもしれませんが、私たちは業界動向やマーケティングなど、あえて数字を見ないようにしています。見ると頼りたくなるというのもありますが、数字はあくまで過去のこと、未来に起きることを教えてくれませんからね。
parkERsでは植物をつかった空間設計やディレクションをはじめ、カフェ業態の「TEA HOUSE」を運営しています。
今年で創業5年目を迎えるのですが、parkERsの事業領域はランドスケープと観葉植物の間。これがブルーオーシャンならぬ、グリーンオーシャンで、この領域にいる企業はほとんどない。だからここで世界一になろうと思っています。
私からはparkERsの創業者であり、ブランドマネージャーという立場から「妄想と科学を成立させる経営」についてお話したいと思います。あと、記事最後にお知らせもあります。
【本記事で紹介する内容】 ・妄想と科学を成立させる経営 ・組織軸:飛び抜けないと、社内ニート ・商品軸:科学で”なんかいいよね”の壁を超える
組織のヒト・モノ・カネについて、parkERsでは明確に役割分担をしています。ロジックや数字が得意な私はヒト・カネ担当。デザインにずば抜けたクリエイティブディレクターは、モノに責任を持ちます。
私はデザイン素人な左脳派だからこそ、「その1mmに100万円かける意味ある?」とズバッと聞けちゃうんですね。そういう右脳と左脳の融合状態が、今のparkERsです。
ここからは組織と商品について、掘り下げましょう。
うちのメンバーは、空間デザイン、設計、施工管理、プランツコーディネーターと、価値観もバックグラウンドもばらばら。
メンバーそれぞれにデザインやグリーンなど、得意分野の「とんがり」をより高い位置まで伸ばしてもらいます。プロデューサーが案件ごとにチームを指揮し、より高次元の「面」をつくれたら、うちならではの仕事ができるんじゃないかと思っています。
案件ごとに社内でプロジェクトを組み、その案件規模や数による年俸制をしいているので、これだ!と言える特技がないと社内ニートになってしまうかもしれませんね。
植物って大体の方に「なんかいいよね」と言ってもらえます。でも、実際の案件だと「なんかいいよね」に1000万円をポンと払えるワケがありません。
これが「なんかいいよね」の壁です。
科学的な数字、ロジックがあればこの壁を超えられるかもしれない……parkERsの左脳派代表としては、頑張りどころです。
たとえば、植物があると本当にストレスは軽減するのか?オフィスでどれくらい緑が見えていると生産性や満足度が上がるのか?外部の協力を得て、研究を重ねました。すると面白いことが見えてきました。
上のグラフは植物あり、なしのストレス軽減効果。植物があるとストレスが11%も下がります。
他にもストレスを軽減する植物、そうでない植物があります。
他にも、AIとアルゴリズムをつかって、最適な植物の配置を計算することもできます。
こういった科学的なアプローチでつくられたのが、世界一集中できるコワーキングスペース「Think Lab」です。
導入事例 JINS社のコワーキングスペース「Think lab」。
科学的なデータをもとにデザインしているのか、と思われますが実は全く逆。感性を科学して、それを技術で実現していく。「なんかいいね」の壁を超えて、圧倒的なところまでやる。
妄想と科学でブランドをつくる、というテーマだったけど、がっつり科学寄りな話になりましたね。では最後は阿座上さん、よろしくお願いします!
お二人の話を聞いて、BAKEの商品開発・開発は、妄想と科学が融合するポイントが多いんだなと思いました。私からはカスタードアップルパイ専門店「RINGO」ローンチ時の事例をもとに、商品企画から開発、そしてブランドとしてどう訴求していくかをお話します。
【本記事で紹介する内容】 ・商品企画・開発の3つの軸 ・味と価格とストーリーのバランスをどうつくるか ・アップルパイ「RINGO」の開発事例
商品企画、開発の軸は8割主義・1ブランド=1プロダクト・おいしさの3原則の3軸で取り組んでいます。1つのブランドにつき1つの商品を扱うビジネスモデルはBAKEの特徴だと思います。
おいしさの3原則は製菓企業としての基本姿勢など、お話したいことはたくさんあるのですが……今日はブランドづくりの出発点となる、「8割主義」についてご紹介します。
商品カテゴリーは10人中8人が「好きだ!」というお菓子を意識しています。マーケットの大きいプロダクトか、という視点ですね。
BAKEでは8割主義と言うのですが、チーズタルトや、シュークリーム、アップルパイなどどれもメジャーなお菓子。実は、差別化とは真逆なんですよ。
ある程度ブランドの方向性が見えたら、左脳/右脳のアプローチを往復するようにします。左脳=商品のこだわりなど、テキストや数値で伝わる情報、右脳=商品の見た目や店舗空間など「なんかいい!」と直感的な要素ですね。
人が魅力を感じるタイミングはそれぞれで、8割の人がどうすれば振り向いてもらえるのか、両サイドから詰めていきます。さらに、味と価格のストーリーとバランスが決まっていきます。
RINGOのアップルパイは、リンゴの品種にこだわる、という方向で商品開発がスタートしました。が、様々な品種で試作したものの、アップルパイにすると大きな味の差別化にはならず……次に気づいたのがカスタードクリーム。
RINGOは一度焼いたアップルパイにカスタードをいれてもう一度焼いてから提供しています。カスタードが入ることで中からトロッととろけて、見た目にもそそられる、シズル感を生み出しました。これが右脳的なアプローチです。
次に左脳的なアプローチ。
例えばパティシエの経験を数値化する科学的アプローチです。これまではパティシエが自身の経験に基づいて原材料を選んだり焼き時間を調整していたものを、数値としとして可視化してみたんですね。144層の構造や、二度焼きの工夫により、よりサクサクとしたRINGO独自の生地が完成しました。
たとえ毎日食べていても、そのお菓子を初めて食べたときの味を意識していて。知識としては必要ですが、食べる時はとことん素人でいるんですよ。最後はちょっとした小話になりましたが、妄想と科学と、同じくらい大切にしています。
イベント中数名の方が #妄想と科学 #妄想と科学でブランドをつくる をつけてTweetしてくださいました。ありがとうございます!
決めたものにこだわりすぎるとその枠に苦しめられる、ってのは今日の話で共通しているところかもしれない。#妄想と科学でブランドをつくる
— しおリスクル(たがみしおり) (@shioliskul) 2018年6月7日
知らなかった!
視界に緑が見える量とストレスって関係性があるらしい視界に10〜15%の緑が入るのが、ストレス軽減の最適解。平均してストレスが11%くらい軽減するんだそう!(植物の種類によって差があるらしい)
最初は慣れなくて拒絶反応が出るんだとか…#妄想と科学https://t.co/6zyjf4oA4r pic.twitter.com/VXcuv8Rsmq
— 塩谷 舞(milieu編集長) (@ciotan) 2018年6月7日
スープストック東京は黒字になるまで8年
ファストフード市場が伸びてるかすら知らずに会議
緑は視界に10〜15%入るとストレスが11%下がる
緑をオフィスに置くと2週間ストレスが上がりそこから下がる。漢方薬と一緒
パティシエ以外がオーナーのお菓子屋があってもいいじゃん#妄想と科学
— 長谷川哲士(コピーライターと噂の代表) (@aseetsu) 2018年6月7日
「妄想」の集積。
イメージできているから、具現化するのは、簡単。
#妄想と科学でブランドをつくる— 島袋孝一 しまこ simako #NewsPicks おすすめPicker (@simakoo1) 2018年6月7日
またトークセッションのあとはSoup Stock Tokyoのスープと、BAKEのお菓子を食べて、お土産にはperkERs提供のひまわりをプレゼント。
お申込みくださったみなさま、ご来場くださった参加者の方をはじめ、野崎さん、梅澤さん、登壇をサポートしてくださった関係者のみなさま、運営メンバー、本当にありがとうございました。
毎回満員御礼のparkERs主催トークショー『Indoor Park Talk Show』。第8回目の開催が決定!今回のゲストはAIも…?!
「夏休みスペシャル 〜大人相談室・人と地球の未来をワトソン君と考えよう〜」 (協力:日本アイ・ビー・エム株式会社、J-WAVE 81.3FM)
こちらから申し込みいただけます!
【開催概要】 日 時 :2018年7月20日(金)18:30開場/19:00 start/20:30 懇親会/21:10 close 場 所 :PORTAL POINT GALLERY 表参道駅から徒歩4分 ゲスト :IBM Watson(AI)、Watson Service IBM Hybrid cloud 東出紀之さん (専門:Watsonアプリケーション開発、AIの将来と”現在地”)
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