2018.10.04

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江戸時代から続くブランドだからといって、改革を恐れない。6代目が手がけるユニークな施策と、広がる日本茶の魅力とは?

江戸時代から続くブランドだからといって、改革を恐れない。6代目が手がけるユニークな施策と、広がる日本茶の魅力とは?

2018.10.04

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ここ数年、海外のコンビニでも、日本の緑茶を見ることが増えたなぁ、と思っていたのですが……

実は数年前から世界的な「お茶ブーム」が到来しているんです。でも、ブームに関係なく、私たち日本人にとってはあまりにも日常的な”お茶”。自動販売機やコンビニでいろんな選択肢がある中でも、やっぱり昔から慣れ親しんだ日本茶を選んでしまいます。

そして今日も私はオフィスで、ペットボトルのお茶を飲んでいるのですが……

この「ペットボトルの緑茶」。いつ登場したかご存知でしょうか?

日本で最初にペットボトルのお茶が販売されたのは、1990年のこと。それから、特に夏季の緑茶飲料の消費量が拡大したそう。(ちなみに私も1990年生まれ。ペットボトルのお茶と同い年です)

そんな中でも、あえて茶葉から提供することにこだわり、進化し続けている、老舗のお茶屋さんがあります。

http://kagaboucha.co.jp/web/shopping/houji/ より

江戸末期・文久3年(1863年)に石川県・加賀市で創業し、150年以上の歴史がある「丸八製茶場」。

ペットボトルのお茶が全盛期の今ですが、丸八製茶場さんの急須でいれる日本茶や、お湯を注ぐだけで気軽に本格的な味が楽しめるティーバッグタイプの茶葉は、多くのリピーターがいらっしゃる人気商品です。

この茶筒を目にしたことがある方も多いのではないでしょうか? 日本茶らしからぬ、ポップで華やかなデザインが目を引きます。でもこんな商品たちの裏には、様々なドラマがあったんです。

「昔ながらの日本茶業界は、斜陽産業。私たちが変わっていかないと。」

そう語るのは、丸八製茶場 6代目代表の丸谷誠慶(まるや まさちか)さん。

9月5日、お菓子屋さんである私たちBAKEのイベントに登壇してくださった丸谷さん。そこで提供してくださったほうじ茶は……

トークイベントで提供された「献上加賀棒茶」というお茶。ほうじ茶といえば茶色いイメージでしたが、献上加賀棒茶は透き通るような黄金色です!!ひとくち飲んで一息つくと、鼻腔を抜ける芳ばしい香り。仕事中とわかりつつも、思わず和みモードに。

表面を焦がすことなく芯から浅く焙じることで、美しい黄金色が生まれるそう。一番摘みの葉や茎のもつ味・香りを活かし、かつ芳ばしさをひきだせるそうです。

最高に美味しいほうじ茶に、可愛らしいパッケージ……。「丸八製茶場」は、老舗というだけではなく、様々な改革で新たなお茶の楽しみ方を提案し続けている注目のブランド。

本日のTHE BAKE MAGAZINEでは、日本が誇る丸八製茶場さんの「ブランドづくり」の秘密に迫ります!

自分たちの言葉でつたえる

ペットボトル飲料の需要により、茶葉の生産量・輸出量は年々増加傾向にあります。そのため、多くの質の高い茶農家はそれまで得意としていた高級な日本茶の栽培から、加工用の茶葉栽培に切り替えてしまったんだそうです。

「ペットボトルのように、日常生活でもっと日本茶の美味しさを知っていただきたいんです」

大量生産・大量消費が促進されていく茶業界の中で、丸八製茶場さんが掲げるミッションはこの3つ。

・過剰品質を追求し、日本茶の価値を創造する
・日本茶の楽しさ、面白さを次世代に伝える
・日常においしい日本茶を取り戻す

品質の高いお茶を作るだけではなく、その魅力を伝えることにも、重きを置かれています。

ですが、実は27年前までは直営店はなく、卸が100%だったという丸八製茶場さん。もちろんそれは、茶葉を扱うメーカーさんの間では、珍しいことではありません。

しかし、「店舗で自信を持っておすすめできる商品を、自分たちの声で届けることに大きな意味がある」と、1991年に直営店の営業に踏み切られました。

昨年夏には品川駅構内にオープン、よりカジュアルに日本茶のあるシーンを届けられています。現在は石川県に3店舗、富山県に1店舗、あわせて5店舗を展開されています。

店頭では、新幹線に乗る前でもさっとテイクアウトできるカップタイプの提供があります。スピーディーに提供することで、もっとカジュアルに飲むシーンを届けられています。また、購入する際には、用途にあわせてひとつひとつ茶葉について丁寧に説明してくださいます。

本来身近であった日本茶、さらにほうじ茶のあるシーンを現代人の生活にあわせてデザインや、飲み方を提案している丸八製茶場さん。

そもそも、なぜほうじ茶だったのでしょうか。

丸八製茶場と、そのルーツを辿りながら、唯一無二のブランドを確立していくまでを追っていきます。

本当によいものを信じて、突き詰める

ほうじ茶というえば、他の茶葉に比べて庶民的なイメージがありますが……丸八製茶場さんのほうじ茶はそのイメージを覆すほどの美味しさ!

「ほうじ茶には玉露や煎茶に匹敵するポテンシャルがある」

そうした確信のもと、江戸時代後期の創業から二度の転機を経て、今の美味しさが作り上げられてきたんです。

一度目の転機は、明治時代の中頃。”茎”を使ったほうじ茶がはじめて金沢で商品化されました。もともと廃棄していた茎部分を活かして作られた茎のほうじ茶は、家庭用のお茶として地域に根付いていきました。

お茶の茎をつかったことから「棒茶(ぼうちゃ)」と呼ばれ、金沢で親しまれています。大正11年に丸八製茶場では商品名を「加賀棒茶」と名付け発売されました。

二回目の転機は創業より120年、昭和時代に入ってのこと。昭和天皇のご来県に際して、宿泊先のホテルより「最高のほうじ茶を納入してほしい」との依頼が舞い込みました。

茎の品種から、炒り方、淹れ方まで、ほうじ茶の出発点に戻る探求のすえ、茎のほうじ茶である「献上加賀棒茶」が誕生しました。

『献上加賀棒茶』は、一番摘みの良質な茎を浅く炒り上げる独自の製法で仕上げられ、丸八製茶場の粋が集約されています。

本当に良いものを突き詰めた結果、本来下級品として扱われていたほうじ茶に、新しい価値が見出されます。

ここからは時代を平成に戻して、現代における日本茶の在り方や、デザインの裏側について伺います。

商品は普遍的、表現はユニーク

そんな天皇にも献上されたという最高級の「ほうじ茶」を始めとした丸八製茶場の茶葉ですが、次世代に伝えていくための数々の工夫が凝らされています。

たとえば、日本茶全5種類のティーバッグ「加賀いろはテトラシリーズ」。

石川県の工芸品でもある、九谷焼の絵柄をモチーフにされています。

目をひく鮮やかな色に、パターンのように敷き詰められたイノシシ….かわいらしい遊び心があふれています!

そして、ティーバッグの持ち手もかわいい。

テトラ(四面体)で茶の形状を包み込み、茶本来の渋味・旨味・芳香が十分に引き出されるようになっています。一杯の湯のみで簡単に本物の茶のおいしさを味わっていただきたい、との思いからつくられたティーバッグシリーズ。

これまでの日本茶のイメージを覆すデザインですが、これまでの「日本茶」のイメージにはそぐわない、とご指摘を受けることもあるそうです。

日本茶といえば仏事をイメージされることも多く、そうしたシーンにおいては、テトラシリーズはあまりにも華やかすぎるのだそう。

それでもなぜ、このようなデザインを取り入れたのでしょうか?

丸谷さんはこう語ります。

「斜陽産業の日本茶を次の世代に伝えていくためのデザインを大切にしています。私たちは地域の文化習慣を踏まえた挑戦をしていきたい。たとえば、石川県の工芸品でもある九谷焼の絵柄をデザインしたり、お茶を通じて伝えられることがあります。」

そう語る、丸谷さんの目には並々ならぬ覚悟が伺えます。

ティーバッグにするなど利用シーンの幅を広げたり、現代のライフスタイルやユーザーにあわせたデザインに積極的な丸八製茶場。歴史や伝統を生活のなかに残していくための、決断だったのではないでしょうか。

6代目の社長に就任後、丸八製茶場を大きく成長させてきた丸谷さん。そんな彼が、

「この取り組みは、丸八製茶場にとっても新しい風だったんです」と語ってくださったプロジェクトが、こちらです。

9月1日より発売された、BAKE CHEESE TARTの「加賀棒茶チーズタルト ほうじたて」

ひとくち食べると、ふわっとほうじ茶の芳ばしさが口に広がるおいしさです。チーズムースとの相性もよく、コクと香ばしさのバランスもよく、ほうじ茶フレーバー好きにとってはたまらない味わいです!

「最初にBAKEさんからお声かけをいただいたときは、失礼ながら、どうやってお断りしようか、と考えてしまっていたんですよ」

と苦笑いで語っておられました。というのも、これまで丸八製茶場は、他社との商品開発にはあまり積極的ではなかったそう。

「日本茶の老舗と言えば、お店があればとにかく売れる時代を経験しています。ですから、新しいことをせずともお客さまは戻ってくる、という認識がなかなか捨てられません。」

コラボという形で名前を掲げるのは、現代まで続く老舗ならではの葛藤なのかもしれません。

BAKE側からの熱心なオファーにより受け入れてくださって、最終的には、BAKE CHEESE TARTのメンバーや、購買担当、商品開発担当は陽が傾くまで話し込んでしまったそう。

両社ともに、伝統や歴史のある日本茶・菓子業界のなかで「らしさ」を見失わず、日本から世界へ、そして未来へ発信していけるよう、前進していくため、葛藤と挑戦を続けています。

編集後記

「これまでのやり方と違う」と批判されても、「このままではいけない」と日本茶全体の前進に挑戦する丸八製茶場さん。もちろん、葛藤がないわけではありません。

聞くと、業界のルールを変えるような新しい挑戦は「いつも自分たちがやるべきなのか、毎回悩むんですよ」と丸谷さん。

「伝統にしがみついていても、この先広がらない。だから僕たちは新たな視点で発信していきたきんです」

そう語る丸谷さんは、丸八製茶場6代目代表を努めながら、職人の手仕事や手造りの味を100年先まで残すプロジェクト「HANDRED」の活動にも取り組まれています。
http://handred.net/

日本の伝統食品の担い手6人で結成された「HANDRED」は、江戸時代から代々受け継がれてきた、手造りの繊細な味や、技術の高さ、食文化の深みを、日本から世界へ、そして未来へ発信していく活動です。

先代が築いてきた伝統や歴史への深い敬意が、日本茶だけでなく、日本の伝統食品業界の未来を見据える目に宿っているようでした。

日本茶ブームだけでなく、ほうじ茶の新しい可能性に挑戦している丸八製茶場。BAKE CHEESE TARTの「加賀棒茶チーズタルト ほうじたて」が、お茶の文化や伝統、そして石川県・加賀の地域に光をあてる、力添えになれば幸いです。

【教えてくれた人】

丸谷 誠慶(まるや まさちか)さん
丸八製茶場 代表取締役
文久3年(1863年)創業。加賀で一番茶の特徴を活かした棒茶を製造・販売する丸八製茶場の6代目。カーナビメーカーに勤務したのち、30歳のときに家業を継承。「日本の若者にもっとお茶のある生活を」とさまざまな形でお茶の魅力を伝える。

丸八製茶場 公式サイト http://www.kagaboucha.co.jp/

「唯一無二のブランドづくり」おさらい ・自分たちの言葉でつたえる
・本当に良いものを信じて突き詰める
・唯一無二のブランドは、商品の普遍性✕表現のユニーク性で生まれる

Text by 名和実咲(THE BAKE MAGAZINE)

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