2018.04.05

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自分たちがやる意義を貫いた「7人のサムライ」。夢の行方を辿ってたどり着いたある農園。

自分たちがやる意義を貫いた「7人のサムライ」。夢の行方を辿ってたどり着いたある農園。

2018.04.05

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今から60年近く昔の話、昭和40年頃のこと。

とあるビジネスを成功させた若者たちが「7人のサムライ」と呼ばれていました。

朝日新聞からの賞も受賞し、全国各地で話題を呼んだ彼らの偉業。

一体、何を成し遂げたのでしょう?

ヒントとなるのは、彼らの活動拠点。青森県の、弘前市。その集落から25キロも離れた山のふもとが「7人のサムライ」たちが勝負を賭けた土地でした。

青森県、弘前といえばーー…そう、「リンゴ」です。

おいしいリンゴに生涯を賭けた「7人のサムライ」、そのなかの1人に出会ったのは、昨年11月のこと。

ゴールド農園の創業者のひとり、石岡豊さんです。

石岡豊さん。有限会社ゴールド農園相談役。「7人のサムライ」集合写真の中央にいる青年で、みんなを説得して新しいことに挑戦するタイプだったそう。

今から60年ほど前、リンゴの価値は見た目の良さ、真っ赤でツヤツヤなものに価値があり、そもそも味を重視したリンゴの品種はわずかなものでした。

そんな時流に抗うように「日本一のおいしいリンゴ作り」という夢に向かって、石岡さんは7人の仲間とともに青森県弘前市、下湯口(しもゆぐち)で立ち上がりました。昭和34年、7人は「虹の会」を結成します。

その夢は”虹を求めて歩む姿”に例えられるほど、おいしいリンゴづくりがいかに困難だったのかを語っています。 7人が人生を賭けて完成させたリンゴは糖度が高く甘いだけでなく、つくり手の働き方を変え、農業の未来を照らしてくれました。一体どんな道のりだったのでしょうか?

さっそく石岡さんに、お話を伺います。

リンゴ栽培の常識が変わる瞬間

石岡:今から17年前、ゴールド農園を見学しにきたお客さまに聞かれたんだよ。ちょうど葉摘みの作業中だった。

「葉を摘むことでリンゴがおいしくなるのですか?」

答えに困ってねぇ。なぜかって「葉摘み」はあくまでリンゴの外見をよくするための作業だから。光をまんべんなくあてて、色ムラのない赤いリンゴにするための作業だね。おいしくなるかと言うとむしろその逆で、果実に養分を送ってくれる葉を摘んでしまっている。

お客さまには正直に説明したんだ。そうしたら「葉摘みをしていないリンゴをぜひ一度食べてみたい」と返ってきた。どうしようかと悩んだけど、これが転機になったんだよ。

それから石岡さんたちは葉摘みをしない「葉とらずりんご」の栽培に取り組まれたのだとか。

赤いリンゴ=甘いリンゴ、というわけではなかった?

石岡:リンゴの農園で袋をかけた状態のもの、見たことあるかい?あれが有袋(ゆうたい)栽培で、ずーっと昔からリンゴ農家の常識だった。皮がなめらかで、赤いキレイな実になる。袋が害虫防止になるし、保存もきくが、甘さはほどほどだね。

袋をかぶせない無袋(むたい)栽培は、たくさん太陽の光を浴びて育つから、有袋のリンゴよりも糖度が1度も高くなる。

さらに0.5度の糖度の違いは、「葉摘み」か「葉とらず」の差。意外かもしれないけど、太陽を浴びた葉がつくる養分が大事なんだ。この養分を実に蓄えた「葉とらずりんご」は、無袋栽培の「葉摘み」のリンゴより、さらに0.5度糖度が増す。そりゃ食べればすぐに分かる違いさ。

リンゴの栽培方法と糖度の違い。

【リンゴの栽培方法による違い】 有袋(ゆうたい)&葉摘み →害虫除けができ皮がなめらかで、鮮やかな色合いになる。
無袋(むたい)&葉摘み →太陽光を浴びて、糖度が1度高くなる。
無袋(むたい)&葉とらず →色はまだらになるが、葉の栄養分により、さらに糖度が0.5度高くなる。

農園でリンゴを摘み取る様子。全て手作業で行われます。樹にはみずみずしい葉が茂ります。

リンゴ栽培における「葉摘み」の工程は、全体の20%ほどの作業量。その負荷を少しでも減らして、甘くおいしくする。「葉とらずりんご」はとても理にかなったリンゴだ、と語ってくれた石岡さん。

おいしいリンゴができて、食べる人も、農家の方も大地の恵みを受けられる。リンゴ界の常識を打ち破った、イノベーションだったのです。

青春の同志、博士と出会う

続けて、石岡さんは苦楽をともにした仲間たちについて、教えてくれました。

石岡:7人の仲間はみんな地元の農家の子で、学校卒業したらほとんどの子は青年団組織にはいるんだよ。盆踊りやら運動会の準備に片付け、村の清掃活動なんかもあった。どうやったら自分たちをとりまく古いしきたりを変えらるか、なんて話しあったりね。

それぞれ、得意なこと、苦手なこと、性格がそれぞれ違ってね。まぁ、いつも一緒につるんでいたし、気心知れた仲間みたいなモンだね。

青年団組織は今で言う、ボーイスカウトのような活動だそう。7人の同志は、青年団組織のなかで自然と集まっていて、何をするのも揃って出かけるようなグループになっていたのだとか。この青春の仲間とともに、リンゴ事業を成功させていくことになります。

石岡:みんな家業を継ぐ身ではあるけれど、リンゴが安値の時代だったから随分悩んだね。そんな時、僕らは恩師である石岡国雄さんに出会った。なんでも知ってる物知り博士と呼ばれていましたよ。海外での新しい農産業の事情にも詳しかったんだ。

石岡国雄さんは昭和33年、農林水産業本部の推薦で、農産業事情の調査のため渡米されました。石岡国雄さん含め全国から10名のみ選ばれたのですが、その道の著名な人たちばかりだったので、村でも大きな話題となりました。

石岡:彼は15歳の頃から農家で働いていたけど、勤勉な人でね。農業の知識だけじゃなく、販売や経営といった数字にも強かった。

石岡国雄さんは早くから、味の良い品種をつくることを勧められていたそう。高度経済成長期で国民の所得が増えるにつれて、味の良いものが求められる、という仮説があったのだとか。

石岡:彼から話を聞くたびに「俺たちはリンゴ農家でやってける」と希望で満たされるような気分だったね。たびたび7人で質問責めにしてしまったけど、それは心強い存在だった。虹の会の夢は、彼の導きがあってこそ叶えられたんだ。

未開拓の地からの挑戦

石岡:60年くらい前かねぇ、「おいしいリンゴをつくる」と決めたはいいが、とにかく農地がいる。けど、開墾された土地は高くて到底買えない。

「こんなところで諦められない!」と思っていたある時、下湯口から25km離れた山のふもとに、まだ誰も鍬(くわ)を入れていない原野が残ってたんだよ。「見つけたぞ!」って、みんなで金を出し合って買ったんだ。

石岡:自分たちで開墾するにも、下湯口から遠くて遠くて。7人で買ったマイクロバスで毎日通って、作業が長引けば寝泊まりしてねぇ。一年くらいかな、大変だったけど、これからだからな。

開墾を1年で、と聞いてもピンとこないかもしれません。当時石岡さんたちが耕したのはしたのは15ヘクタールの土地、なんと東京ドーム約3個分の広さです!

石岡:やっとリンゴつくれるんだから、甘みの強い、新しい品種を育てたね。地元の先輩たちからは、それはもう反対されて。桃って2、3年で実が成るけど、リンゴは10年かかる。だからその間は新しい品種の苗を販売したり、研究をしたりね。

10年という途方もない時を重ね、昭和50年を迎える頃、石岡さんたちのリンゴが実を結びます。夢は新しい品種の育成だけにとどまらず、7人の挑戦は続きます。

石岡:次に挑戦したのは「もっと」甘いリンゴをつくること。周りからは「無袋リンゴは見た目が悪い、売れなくなるぞ」と反対されたけど、やりましたよ。絶対おいしくなることはみんな分かってただろうけど、挑戦してなかったからね。

ちょうど「虹の会」結成から6年後、農事組合法人「ゴールド農園」を組織するようになりました。

当時、弘前の市場にゴールド農園のリンゴは「この見た目では売れない」と、取引されませんでした。それでも、7人の歩みは止まりません。無袋リンゴを手に全国を巡り、直接お客さまに届けることで、新しいリンゴのおいしさを伝えていったと言います。

そして今では弘前の市場(弘果)でも取引されるようになっています。木箱には「葉とらずりんご」の文字が。

お客さまの中の常識も少しずつ変わっていった背景には、リンゴを栽培するだけでなく、そのおいしさをとことん伝えよう、という石岡さんたちの強い意志がありました。7人の情熱が多くの人の心を打ち、だんだん甘くておいしいリンゴが支持されるようになりました。

そして14ヘクタールからはじまった農園は、新しい栽培方法を取り入れたいと賛同した農家とともに、2010年には500ヘクタールにまで広がりました。

最後は、葉とらずりんごの今と、7人の開拓精神についてお送りします。

「7人のサムライ」とフロンティア・スピリット

未開拓の原野から、全く新しいアイデアでリンゴ作りを目指す7人の若者たちの行動は、青森中で話題になったそう。 そして原野に挑んだ勇気が讃えられ、7人の若者たちはいつしか「7人のサムライ」と呼ばれるようになったのだとか。

昭和49年には、日本農業の最高の賞である朝日農業賞を授与されるなど、弘前、青森の枠を飛び越えて全国にその名が知れ渡りました。画像は公式サイトよりキャプチャ

その後「葉摘み」と呼ばれる作業を行わないことで、さらに甘くおいしく育てる「葉とらずりんご」の栽培に取り組んだときのことをこう語ります。

石岡:農園を見学にいらしたお客さまの言葉がきっかけだったけど、最初の年はどうなることかと思ったよ。分かってたけれど見た目はイマイチ、葉の影の部分が色ムラになるからね。でも食べたらびっくりするほど甘くて、「これならいける!」とみんな確信したよ。

当時、農園での加工品づくりがまだ珍しかった時代、ゴールド農園ではリンゴジュースやジャムの販売など、新しいアイデアが次々と実践されました。これも、全国を巡ったときと同じように、おいしさを伝えることへの情熱からです。

そして実は、BAKEのカスタードアップルパイ専門店「RINGO」にはいっているリンゴフィリングの一部にここゴールド農園の「葉とらずりんご」を使わせてもらっています。

BAKEの焼きたてカスタードアップルパイ専門店「RINGO」。なかにゴロゴロと入ったリンゴフィリングが特徴

取材中、RINGOのカスタードアップルパイも実食してくださいました。

「はじめて食べた。うまいよ。」という言葉がジーンと沁みました。さらに「これは他のリンゴも使ってるね?酸味や食感もいい具合だ」と、さすがリンゴづくりのプロの感想をいただき、拍手を送らずにはいられませんでした。

農園で生まれる「葉とらずりんご」。

ゴールド農園で、後ろのダンボールのように人の手でひとつずつ、ていねいに箱詰めされ……

加工工場では収穫されたリンゴの皮をむいて芯をとり、シャキっと食感の残るダイスにカットされ、プレザーブ(シロップ漬け)にしていきます。 高い品質を保つため、手作業の多い工程を経て、プレザーブがつくられ……

リンゴのプレザーブはBAKE北海道工場でリンゴフィリングに加工し、アップルパイになり…

そして最終アンカーは、RINGOの店舗。

店舗スタッフは、たくさんの人の手をかけてつくられたRINGOのアップルパイを、お客さまに届ける最終アンカーです。

7人の青春と共に歩んできたゴールド農園では、今年も実りと収穫の時期を迎え、「葉とらずりんご」がたくさんの人に届けられてゆきます。

RINGOブランド2周年を記念して、特別なジャムができました

これまでご紹介していきたゴールド農園の「葉とらずりんご」の、素材そのもののおいしさを凝縮したジャムが完成しました。

RINGO2周年を記念して、4個以上購入した方に各店舗先着100名様(×10日間)で、RINGOでも使用している「葉とらずりんご」を使ったリンゴジャムをプレゼントいたします!

【RINGO2周年記念のプレゼント概要】 ・ゴールド農園の「葉とらずりんごジャム」を毎日先着100名様にプレゼント ・プレゼント対象:4個ご購入のお客様 ・期間:各店、以下の10日間 1)RINGO池袋店 2018年3月4日(日)〜2018年3月13日(火)※配布は終了いたしました 2)RINGOウィング川崎店 2018年4月27日(金)〜2018年5月6日(日) 3)RINGO天神地下街店2018年5月22日(火)〜 2018年5月31日(木)

私たちブランドのルーツであるリンゴのこだわりをみなさまにお伝えしたいと考え、RINGOのタブロイド紙(冊子)を特別編集で作成しました。

ゴールド農園でのリンゴづくりや、RINGOの店舗デザインについて、デザイナーインタビューを掲載しております。

池袋店、川崎店、天神地下街店の3店舗の限定配布、印刷部数に限りあります。お店で見かけた際はぜひ手にとっていただけたら嬉しいです。

(編集後記)

青森、弘前へ出張が終わり、東京オフィスへ戻る帰り道、本格的に降りはじめた雪は、あっという間にあたりの景色を変えていきました。ゴールド農園でのリンゴ栽培にかける情熱を知り、BAKEのお菓子にかける思いと共鳴するものを感じました。凍てつく寒さにも負けず、虹に向かって歩み続ける7人の「日本一のおいしいりんごを作る」という誓いを、これからも受け継いでいくその一端を担っていけますように。

文:名和実咲(@miiko_nnn) 編集:塩谷舞(@ciotan

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