こんにちは。BAKE Inc.の科学研究員の大嶋(Facebook)です。
近年、自分のアイデアやプロジェクトを実現するための資金集めの手段として、「クラウドファンディング」に注目が集まっています。 特に海外のクラウドファンディングのプロジェクトには、食を進化させるようなアイデアも多く見かけます。
「お菓子を、進化させる」をミッションにかかげるBAKE Inc.(以下BAKE)としては、科学とテクノロジーを使った革新的なアイデアに注目していきたいところ。今回は、”飲み物”に注目して、海外クラウドファンディングサイト「Indiegogo(https://www.indiegogo.com/en )」の中の特に面白いと感じたアイデアを4つご紹介してみようと思います!
サイトには食以外にも様々なジャンルのプロジェクトがあり、実際に商品化しているものはサイト内で購入することも可能です。
それではさっそくご紹介します!
「The Right Cup」は、飲み物の味を変えることができるコップです。といっても、コップに味がついているのではありません。コップの素材に香り成分が含まれているのです!
The Right Cupに飲み物を注いで飲むと、コップから漂う香りとコップの色によって、飲み物の味を変えることができます。水のような味のない飲み物にも、味がついたように感じられるといいます。現在では、オレンジ、ミックスベリー、アップル、ピーチ、グレープ、コーラの6種類があるそうです。
このコップは、脳の錯覚のしくみを利用しています。人が味を認識するときには、味覚だけでなく、香りや見た目にも大きく左右されます。たとえば、かき氷のシロップは、実はいちごもメロンも味は同じで、違うのは香りと見た目だけです。香りと見た目が変わるだけで、味の感じ方が大きく変わりうるのです。
飲み物そのものを変えずに脳で味を変えるという発想は、「コグニティブの時代」とも言われる現代ならではの発想だと言えるでしょう。また、「バーチャルカクテル」など類似の試みはあるにしても、実際に製品化に成功し、市場に出回るようになった例としては、おそらくこれが初めてなのではないでしょうか(筆者が知らないだけでしたらすみません…!情報お待ちしています。)
The Right Cupを開発したIsaac Laviさんは、30代で糖尿病を患い、砂糖の入ったドリンクを飲めなくなってしまったようです。自らの体験がきっかけとなり、「カロリーや糖質を気にせず、味を楽しめないか」という願いを叶えるべく誕生した製品であるようです。
オレンジジュースやコーラには糖質が多く含まれるため、何気なく飲んでいると知らないうちにカロリー摂取につながることがあります。The Right Cupを使えば、体型や病気を気にせずオレンジジュースやコーラの味を楽しむことができそうです。
ただ、現状では、アメリカ食品医薬品局の認可は降りているものの、日本の基準はクリアできなかった模様です。改良版が日本にもやってくることを期待したいですね。
「Glowstone heated smart mug」は、中に入った飲み物を温かいまま保ってくれるマグカップです。マグカップの底にヒーターが搭載されており、飲み物を注ぐとセンサーが感知し、スイッチを押す必要もなく作動します。中の飲み物の温度が下がってくると、ヒーターが動き始めて保温をはじめます。
コップ自体は冷たく、ヒーターが作動している時でも熱くならないようです。また、専用のコースターにのせるだけで充電できるので、スタイリッシュに使えます。マグカップのデザインもいくつかの種類があるようです。
このマグカップが、単に保温性の高い素材でできたカップと違うところは、コーヒーやお茶が一番おいしい状態になるように設計されているところです。このマグカップは全自動で中の飲み物を60-65度に保ってくれるのですが、この温度帯は、開発者が2年半ほど様々な論文を読み漁り、コーヒーやお茶が一番おいしく感じられる温度帯として決められました。
また、マグカップは「ファインボーンチャイナ」という高級磁器素材でできています。舌に触れた時に金属やプラスチックの味が飲み物の味を邪魔することがないように、この素材が選ばれたようです。科学とテクノロジーを使って、おやつタイムや仕事中に飲むコーヒーやお茶をおいしくしようとする、本気感溢れるマグカップですね!
開発者のThomas Gostelowさんは、幼い頃から発明好きで、メカニカルエンジニアとしての教育を受けた後、プロダクトデザイナーとして働いていたようです。ある時彼がコーヒーマシンを購入した時、「せっかく理想的な状態で抽出されるのに、最初の数口でそれが終わってしまう」と感じたそうです。
温めた金属のコップで飲んでみたりしたものの、舌に金属が触れる感じが味を損ねている…そこで彼は、味を損ねない高級磁気素材に、保温の機能をつけたものを自作することに決めました。何度か試作を重ねた結果、単に温かい状態を保つだけではなく、コーヒーやお茶をよりおいしくすることに気づいたといいます。
温度は、食べ物や飲み物のおいしさを左右する要素の一つです。ありそうでなかった便利なこのマグカップを使えば、寒い冬でも温かくておいしいコーヒーやお茶を楽しめそうですよね!
▷詳細ページ:https://www.indiegogo.com/projects/glowstone-heated-smart-mug-fine-bone-china-coffee-tea#/
「Kuvée」は、ワインの鮮度をキープできるボトルです。ワインそのものは、カートリッジ(写真:シルバー)に入っており、カートリッジを本体(写真:黒)に差し込んで注ぎます。一度に複数のワインを飲みたい時には、カートリッジを差し替えるだけでOK。鮮度を気にせず、一度にいろいろなワインを開栓できちゃいます。
また、本体にはタッチパネルがついていて、WiFiに接続して新たなカートリッジを注文することもできます。現在では48種類のワインカートリッジがあるようです。
ワインは通常、栓を開けてしまうと酸化が始まり、日に日に味が変わってしまうため、一度開けたら早めに飲みきる必要があります。しかし、一人だと飲みきれなかったり、次の日には別のワインを飲みたいようなシチュエーションもありますよね。
このカートリッジの蓋は、酸素の侵入を防ぐ特殊な構造になっているため、開封後も酸化の心配がありません。鮮度は最大で30日間保たれるようです。鮮度が保たれることで、一人でいろいろなワインを飲み比べたり、ホームパーティでいくつかのワインを開栓したりすることがしやすくなりそうですね。
また、本体のタッチパネルには、その人が飲んだワインの履歴情報を元に、オススメのワインを提案してくれる機能もあるようです。ボトル全体でワインの楽しみを拡張してくれるデバイスは、世界初登場ではないでしょうか!
Kuvéeを開発したのは、ワイン愛好家、ワインメーカー、技術者、デザイナー、エンジニア、マーケターなどが様々なエキスパートが集まったチーム。メンバーは、上質なワインを、手頃な価格で多くの人に届けることに情熱を燃やしているようです。(BAKE Inc.に近いものがありますね…!)
開発にあたり、「開いているワインを飲む」ではなく「飲みたいワインを飲みたい時に飲む」ことを叶えるワインシステムを目指していたといいます。Kuvéeを使ってワインの飲み比べやワイン選びがしやすくなることで、これからワインに詳しくなりたい人がワインを学ぶ時にも役立つこと間違いなしでしょう!
▷詳細ページ:https://www.indiegogo.com/projects/kuvee-the-smart-wine-bottle-that-keeps-wine-fresh#/
「CogniTea」は、集中力をアップする効果が期待できるお茶です。ミントやアッサムなど11種類の植物からできたお茶で、普通のお茶のようにティーバッグになっています。お湯だけでなく水出しもできます。
CogniTeaには、緑茶などに含まれる「L-テアニン」という物質と、コーヒーなどに含まれる「カフェイン」という物質が絶妙なバランスで入っているようです。これらが脳波を「アルファ波」と呼ばれる状態にすることで、意識がクリアになる、集中力が上がる、リラックスする、創造的な思考が捗る、などにつながるといいます。
集中力や生産性を上げるためには、コーヒーやエナジードリンクを飲むのが一般的だと思います。これらには先にも述べたカフェインが含まれており、目を覚ますはたらきがあります。しかし、確かに一時的に集中力がアップすることはあっても、副作用としてイライラしたり不安を感じやすくなったような経験はないでしょうか。
その副作用をなくすのが、L-テアニンです。L-テアニンは緑茶にも含まれていますが、その量は1杯あたり数〜数十mg。しかし、CogniTeaには1杯あたり100mgのL-テアニンが含まれています。L-テアニンは、脳の中に入ると、「GABA」や「ドーパミン」という物質を分泌するようです。GABAは興奮を抑えて落ち着かせるはたらき、ドーパミンはやる気を起こさせるはたらきがある物質です。これらが分泌されることで、イライラや不安を感じることなく、穏やかに集中力を高めることができるのです。
CogniTeaを開発したAlex Kravetsさんは、アメリカの東海岸から西海岸までを飛び回るようなコンサルタントだったようです。カフェインの摂取が不可欠でしたが、カフェインを摂ると目が充血したり、神経質になるなどの問題がありました。普段の生活で、副作用なく集中力だけを上げる方法を探していたことが、開発につながったようです。
Alexさんは、CogniTeaを飲んで得られる力を「生産的エネルギー」と呼んでいます。個人の目標達成を支援できるような、デイリーユースのお茶を目指しているようです。最近では、食にセルフケアの役割を期待する流れが強まっているので、CogniTeaのような発想は時代のニーズに合っていると言えるでしょう。
▷詳細ページ:https://www.indiegogo.com/projects/cognitea-productive-energy-for-mental-clarity-focus#/
みなさんが気になる飲み物はありましたでしょうか?今後も最先端の食事情をウォッチし続けていきますので、また面白いものがあったらTHE BAKE MAGAZINEの方でご紹介いたします!
また、筆者の運営するBAKE Inc.の科学メディア「OPENLAB Review」では、フードテックや食の科学に関する話題を多数取り上げています。食の未来に興味がある方は、ぜひこちらもご覧くださいませ〜! ▷OPENLAB Review
・OPENLAB Review:https://bake-openlab.com/
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