こんにちは。BAKEの科学研究員、大嶋(Facebook)です。
突然ですが、皆さんは”溶けないアイス”をご存知ですか?
夏のアイスといえば本来、360度満遍ない位置からスプーンですくったり、溶け始めた部分をなめて無かったことにしたり、様々な工夫を凝らしてなんとか溶けるのを阻止しながら食べる、格闘型のスイーツであるはずです。
しかし、そんなアイスの常識を覆すアイスが現れ始めているのです。たとえば、東京・原宿にある「金座和アイス」。こちらは、常温で3時間放置しても溶けないという強者で、この夏もっとも注目が集まっている溶けないアイスです。
実際に、こちらの溶けないくまモンアイスを3時間常温で放置してみたところ、全体的にゆるゆるになってはいたものの、くまモンのイケメンフェイスは見事に維持されていました!!
これはなかなか画期的ですよね!アイスなのに一体なぜ溶けないのか、気になってきませんか??
実は、こうした溶けないアイスは1つではありません。この記事では、溶けないしくみに焦点を当てながら、いろいろな溶けないアイスをご紹介してみたいと思います!
(画像:http://ice.biotherapy.co.jp/ よりキャプチャ)
先ほどご紹介した「金座和アイス」は、金沢大学の太田富久教授らのチームが開発しました。こちらは、研究チームが発見した「イチゴポリフェノール」という成分を用いることで、常温で3時間放置しても形を保っていられるアイスとなっているようです。
イチゴの果汁から採れるイチゴポリフェノール。これをアイスを凍らせる前に加えると、アイスの水分や気泡が、乳脂肪(脂肪の粒のあつまり)に囲まれる状態になるようです。脂肪は水分を通しにくいため、乳脂肪に囲まれた状態で凍ることで、アイスが溶けても水分が流れ出しにくく、アイスの形が保たれるようです。
(画像:http://www.japan-sfl.com/soft.html よりキャプチャ)
実は、金沢には溶けないアイスがもう1つあります!日本海藻食品研究所が開発した「溶けにくいソフトクリーム」です。こちらは常温で40分放置しても溶けないようです。鍵となる原材料は、独自配合のおからと米粉です。
おからには食物繊維が、米粉にはアミロペクチンと呼ばれる成分が含まれています。これらの成分は、網目のような複雑な構造を作ることが知られています。これらをアイスの原料と混ぜ合わせることで、アイスの水分は、その複雑な構造の中に閉じ込められると予想されます。水分が複雑な構造に閉じ込められることで、温度が上がっても水分が流れ出しにくく、アイスの形が保たれるのではないかと考えられます。
(画像:http://honkuzu.kyoto.jp/ よりキャプチャ)
さらに、日本らしい食材である「くず」を使った溶けにくいアイスキャンディーがあるようです。くずアイスキャンディーは、京都の本くず氷本舗や、神奈川の和菓子司いづみやなどで販売されています。
くずの主成分はでんぷんです。でんぷんは、「グルコース」と呼ばれる粒子がたくさんつながって、木の枝のような形になっています。でんぷんは、水分とともに加熱することで、水分が枝と枝の間に入り込み、葉っぱのごとく枝にくっつきます。このまま急速に冷凍すると、水分は枝とくっついたまま凍らせることができます。このため、温度が上がっても、水分は枝にくっついたままでいて流れ出しにくく、アイスの形が保たれるのだと考えられます。
(画像:https://www.walmart.com/c/kp/ice-cream-sandwiches よりキャプチャ)
お次は海外の事例です。アメリカのスーパーマーケット「ウォルマート」が販売するアイスクリームサンドは、なんと27度の屋外で12時間放置しても溶けなかったことで一時期話題となりました!こちらのアイスクリームは、「グアーガム」や「硫酸カルシウム」などの食品添加物の量を工夫することで、溶けないようになっていると考えられています。
グアーガムとは、豆から採れる植物由来の食品添加物で、ねばりけがあるのが特徴です。グアーガムがアイスの原料に加えられることで、グアーガムのねばりけによって、アイス全体が動きにくくなります。また、硫酸カルシウムとは、豆腐を固める時にも使われる食品添加物です。これをアイスの原料に加えると、大豆のタンパク質を固めて豆腐を作るときのように、アイスに含まれる牛乳のタンパク質を固めることができます。このような添加物の使用によってアイスの原料全体がより強く結びつくことで、溶けないアイスに仕上がっているのではないかと思われます。
最後は、まさかの納豆にも含まれる成分を使った溶けないアイスです!納豆のネバネバ成分の中には「BsIA」と呼ばれるタンパク質が含まれています。イギリスの研究者たちは、このBsIAがアイスを溶けにくくするのに役立つことを発見しました。
くわしい働きはまだ研究途中のようですが、BsIAはアイスの成分同士をくっつけて動きにくくしたり、水が凍るときに口当たりのよい氷の結晶にすることに関係しているようです。BsIAが含まれるアイスはまだ市場に出回っていませんが、新しい食品添加物として、食品業界から期待されているようです!
5つの溶けないアイスをご紹介してみましたが、気になるものはありましたでしょうか。皆さんもこの夏は、ぜひ溶けないアイスを体験してみてください!
アイスの科学ことをもっと知りたい人は、BAKEのお菓子科学研究メディア「OPENLAB Review」にて詳しくご紹介しています!
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