こんにちは。BAKEのサイエンス担当、大嶋(Facebook)です。私は大学院まで生命科学を専攻したのち、味覚センサーを扱う会社で1年間働き、去年の4月よりBAKEのOPENLABにて研究員をやっております。 みなさんは「分子調理」をご存知ですか? 食材や調理のプロセスを分子レベルで捉え、新たな美味しさを追求する分子調理。なんとなく「科学を使った調理なのかな?」という印象は抱くものの、実際どんな料理なのかよくわからない方も多いのではないでしょうか。 そこで、今回の記事では、分子調理で使われている代表的なテクニックや具体例をご紹介してみたいと思います!
(写真:http://bonappetitcrepecompany.com/より) 写真の白い煙のようなものに注目してください。これは煙でもドライアイスでもなく「液体窒素」と呼ばれるものです。液体窒素の中に食材を入れると、食材を一瞬にして凍らせることができます。 窒素は、私たちが普段吸い込んでいる空気の8割を構成しているように、常温では気体です。しかし、マイナス196℃よりも低温になると液体になります。 つまり液体窒素は、めちゃくちゃ冷たい!冷凍庫の比ではありません。ここまで冷たければ、あらゆる食材を一気に凍らせられることにもご納得いただけるのではないでしょうか。 写真では、アイスクリームを凍らせています。煙のように見えるのは、食材に触れた瞬間に温度が上がって液体から気体になるためです。 液体窒素を使う理由としては、調理の過程で派手なパフォーマンスができるというのも一つの理由ですが(笑)、おいしさ面でのメリットもあります。冷凍庫などで食材を凍らせる場合は、時間がかかるかつ、氷の結晶が大きくなって、食材の細胞が破壊されたりすることで、食品の品質が変化します。一方、液体窒素による瞬間凍結では、氷の結晶が大きくなるヒマがありません。ゆえに、そのままの形状で、風味や食感を変えることなく凍らせることができるのです! ちなみに、お菓子の世界でも、液体窒素は使われ始めているようです。 こちらは液体窒素にムースのようなものを絞ってデザートを作っている様子。口の中でシュっと溶けそうですね!
こちらはロサンゼルスの「Chocolate Chair」というお店で提供されている「Dragon’s Breath」というスイーツ。食べると口の中からモクモク煙が出る様子を楽しめるようです!
#dragonsbreath #dessert #OCFoodieWeekend The Lardizabalsさん(@jjam_love_life)がシェアした投稿 –
(写真:https://morganreboots.com/より) こちらの写真はスパゲッティの上に、何やら泡状のものが乗っかっていますね。これは何だと思いますか? ビールの泡ではありませんよ。カレー味の泡です。 カレーといえば、ルゥか液体の状態でしか目にすることがないでしょう。そんなカレーのまさかの泡状化を可能にするのが、「エスプーマ」という器具です。 (写真:https://www.proidee.at/concept-store より) エスプーマとは、分子調理をいち早く取り入れたスペインの世界的レストラン「エル・ブジ」の料理長が開発した器具です。この器具を使うと、カレーに限らずあらゆるものを泡状(ムース状)にすることができます。 器具は細長い容器に、噴出口とガスの注入口がついています。食材をペースト状にして、卵白やゼラチンのような凝固剤とともに入れます。それを、「亜酸化窒素」というガスとともによく混ぜることで、ペースト全体を泡立た状態で噴出することができます。 炭酸飲料などに含まれる二酸化炭素を使うことでも泡立てることは可能ですが、苦味やピリピリとした感じもおまけで付いてきてしまいます。しかし、亜酸化窒素では、味や風味に影響を与えることなく泡立てることができるのです。 もちろんカレー以外も泡状にすることが出来るのですが、スイーツだと、Instagramで「エスプーマかき氷」なんかも登場しているよう。以外と身近な分子調理のひとつかもしれません。
???? ・ ・ #かきごおりすと #氷活動 #今年もはじめました #? yumiさん(@yumi__0115)がシェアした投稿 –
(写真:https://www.youtube.com/watch?v=g9A3IYwT4Us より) これまたインパクト大な写真が登場しました。見た目の通り、これはお刺身です。サーモンとマグロのハイブリッドお刺身です。食べたことありますか…?「あるあr…ねーよwww」ですよね。私もありません。 お箸で持ちあげられている様子が示すように、サーモンとマグロはきちんとくっついています。サーモンとマグロは何でくっついているのでしょうか。もちろん、木工用ボンドや瞬間接着剤のような食べられないものではありません。 実は、タンパク質用の接着剤(食用可)というものがあるのです。 この接着剤は「トランスグルタミナーゼ」と呼ばれる酵素で、人の体の中にも含まれています(出血を止めたり皮膚を丈夫にするのに役立っているそうです)。タンパク質は20種類のアミノ酸でできており、このうちの「グルタミン酸」と「リジン」という2種類のアミノ酸同士を結びつける働きを持つのが、トランスグルタミナーゼなのです。 トランスグルタミナーゼを使えば、細切れの肉をステーキ肉のような塊にしたり、牛豚鳥の混合肉を作ったりできます。もちろん、魚介類にも使えます。細長い麺状にすれば、小麦粉以外から麺を作ることもできるようです。
今まで挙げた分子調理を口にされたことがない方でも、「人工いくら」というものの存在はご存知かもしれません。 実は、人工いくらは、分子調理の基本技術によって作られているのです。分子調理法を使ったレストランでは、ジュースやドレッシングなどを球体状にして、中を割ったらじわぁ…と中身が出てくる料理がよく提供されます。これと、人工いくらの原理は同じです。”液体を薄い膜で包んで球体にする”のです。 「アルギン酸ナトリウム」という、海藻などに含まれるヌメヌメ成分である物質を、ジュースなど球にしたい液体の中に溶かします。それを、「乳酸カルシウム」と呼ばれる物質の溶けた水の中に入れると、ジュースが球体になります。 アルギン酸ナトリウムは、「L-グルロン酸」と「D-マンヌロン酸」と呼ばれる2種類の糖が長く連なって出来ており、ジグザグした鎖形になっています。アルギン酸ナトリウムがカルシウムに出会うと、ナトリウムが結合していた部分がカルシウムに置き換わります。さらに、1分子のナトリウムは1つの分子としか結びつきませんが、1分子のカルシウムは2つの分子と結びつくことができるので、カルシウムを介してアルギン酸カルシウム同士が結びつきはじめます。これが球体の膜の正体です。こうしてできた球体は熱にも強く、少し温めたぐらいでは溶けません。
(写真:http://www.instructables.com/より) 最後に、今回の5つの中でもっとも誰でもトライできそうな技法をご紹介します。 ゼラチンや寒天を使って、ゼリーやプリンといったゲル状の食べ物を作るのは一般的ですね。分子調理では、ゼラチンや寒天以外にも「アガー」「カラギーナン」「ゲランガム」などのゲル化剤を使って、硬さや透明度が異なるさまざまなゲルを作る試みをしています。 これらは「多糖類」と呼ばれる種類の物質で、アルギン酸ナトリウムと同様に、糖が細長く連なり、絡み合うような構造をしています。ゲル化したい液体を温めてゲル化剤を溶かすと、ゲル化剤の糖の鎖のすきまに液体が入り込んだような状態になります。そこから温度が下がると、すきまに液体を含んだまま、鎖同士が水素結合などによって相互に結びつきはじめます。 こうしてプルプルとした、液体でも固体でもない食感ができあがるのです。注射器と細長いチューブを使えば、細長いひも状のゲルを作ることもできます。写真は、いちごのリキュールやチョコレート(ミルク・ホワイト)をひも状にゲル化したものです。 ゲル化は基本的に、温めて、混ぜて、冷やすだけですので、材料さえ手に入れば、誰でもトライすることができますよ! 以上、分子料理の5つのテクニックについてお伝えしました。 分子調理のテクニックは他にもいくつかあります。こうした科学を駆使した調理テクニックによって、料理で新たな表現や味わいを生み出すのが分子調理の世界です。日常ではなかなか食べる機会がありませんが、これからも科学で料理を進化させる第一線の分野であり続けることでしょう。
・本能は「逆三角形」に反応しやすい?見つけやすいパッケージの心理学 ・これからの仕事は「快楽原則」。マーケティングは一切しない、サンフランシスコ発・堀淵清治さんの仕事づくり ・生どら焼き専門店「DOU(ドウ)」の発表を祝して、丸山珈琲とシャンドンとのコラボパーティーを開催しました!