こんにちは!BAKEでブランド戦略を担当している清家です。生まれは日本ですが、幼少期はずっとバンコクに住んでいました。
と、突然昔の写真を引っ張り出してきたのですが…… 下の写真は昨年12月に訪れた、バンコクにもほど近い島国、インドネシアのデンパサール空港にて。 南国育ちの私にとっては懐かしい気候だけど、冬の日本からとの落差で玉のように汗が噴き出してきました。 里帰りのためのトランジットではなく、クリスマス休暇でもなく、BAKEでの出張だったのですが、どうして12月にインドネシアへ行くことになったのかというと……
昨年12月。世の中はクリスマスシーズンですが、BAKE社内では2ヶ月後に迫るバレンタインの準備に勤しむスタッフもちらほら。 そこで準備されているのがこちらの… BAKE CHEESE TARTの期間限定フレーバー、チョコチーズタルトです。 「人生で一番美味しいチーズタルト」を目指し、通常はチーズタルトのみの販売ですが、1年で約1週間だけの期間限定でチョコレート味を販売しています。
これまでBAKEでは、クロッカンシューザクザクでは北海道にある契約農家さんの放牧牛乳を使ったクリームを作ったり、グルテン量などを調整したオリジナルの小麦粉を開発をしたりと、原材料にこだわったお菓子作りを追求してきました。 そしてこの期間限定のチョコチーズタルトも、原材料のカカオ豆からこだわっているチョコレートを使いたい。 そんな中、縁あって出会ったのが、京都にあるショコラティエ「Dari K」さんです。 2011年にスタートした6年目のショコラティエながら、世界最高のチョコレートの祭典・サロンデュショコラinパリでも2年連続でアワードを受賞している実力派! そして、原材料であるカカオ豆へのこだわりはこの上ないとのことなのですが…… チョコチーズタルトの販売準備を進めている私に、BAKE代表の真太郎さんが話しかけてきました。
「清家さん。Dari Kさんがどのようにカカオ農家さんと向き合っているのか、我々はしっかり現場を見てくる必要があると思うんです。なのですが、年末は台湾初のザクザク出店が重なっていて……」
「つまり、現場を見て来いということですね?」
「はい!お願いできますか?」
「もちろんです!」 ここで、日頃は社内でお菓子のウェブメディア『CAKE.TOKYO』を運営している平野くんが混ざってきました。
「チョコレート!ぼくも行きます!カメラマンやらせてください!」
「では清家さん、平野くん、よろしくお願いします! ちなみにDari Kさんのカカオ農園はインドネシアの農村部にあるそうなのですが、京都にいらっしゃるDari Kの吉野社長も同行してくださいます!」 ……こうして、チョコレートが大好きな 平野くん(初海外出張)をカメラマンとして引き連れ、2016年の暮れに急遽、Dari K社長の吉野さんと一緒にインドネシアへ飛ぶことになったのです。 席に戻り、おもむろに検索しだす平野くん。
「清家さん大変です……!」
「どうしたの?」
「Dari K社長の吉野慶一さん、オックスフォード大学院を出られてて、前職は外資系投資会社の金融アナリストされてます。しかも……」
「しかも?」
「『ガイアの夜明け』に密着されている」
「わかったから、平野くんはカメラとパスポート、名刺だけ持って出発2時間前に空港まで来れば大丈夫だから!はいこれe-ticket!あと念のためLINE交換しよう!!」
そして翌朝、平野くんからLINEが。 ……その後大急ぎでチェックインを済ませて、なんとか間に合いました。 さて。目指すのは、約1万3千個あるインドネシアの島々の中でKの形をしたスラウェシ島の「マカッサル」という地域にある「バンタエン」という場所です。 まずはバリ島まで7.5時間のフライトを終えたところで、預けたトランクが届かず、2時間かけて探しに探す私たち。 ようやく見つかったところで、先にインドネシアに到着していたDari K社長の吉野慶一さんに合流!
「インドネシアにようこそ!」 …吉野社長の笑顔に全力でほっとしてしまいました。 このタイミングでもう夜だったので、バリ島で一泊。翌日1.5時間のフライトでスラウェシ島へ。 ここに来るだけでもなかなかの達成感。ですが、そこから車に乗り…… 長い長いドライブなので、途中で休憩しながら…… (これは衝撃的な甘さなのに美味しいジンジャーティー!) ようやく、目的地のバンタエンに到着!日本を出発してから、30時間が経過していました。 ここでようやく、吉野社長にDari K設立の裏話などをインタビュー。
「いや〜、道中ありがとうございました…!でもどうして、Dari Kさんはここインドネシアのカカオ農園さんたちと、共に歩むことになったのでしょう?カカオといえば、ガーナなどのアフリカか、南米のイメージがあったのですが……」
「そうですよね。僕も昔はそう思っていたんです。 でも、金融業界で働いていたときに韓国旅行に行ったのですが、そこで偶然立ち寄った一軒のチョコレート屋さんの壁に、カカオの生産地を示す世界地図が貼ってあったんですね。それを見ると、インドネシアにも生産国であるという印が付いていたんです。 それを不思議に思って調べてみると、その年のインドネシアのカカオの生産量はガーナを抑えて世界2位だったんですよ」
「えっ、ガーナより多いんですか? カカオといえばガーナ、というイメージでした…」
「そうですよね。だって、日本に輸入されているカカオ豆の80%がガーナ産。インドネシア産は0.3%に満たないんです」
「どうしてそんなに偏っているんですか?」
「諸説ありますが、外資製菓メーカーが量産品用に、安価で大量のカカオをインドネシアから仕入れているようなんです。 しかし、あまりにも安価であるがために、インドネシアのカカオ農家は香り豊かなカカオ豆に不可欠な”発酵”の手順を踏まずに豆を売買していたんですよね」
「そもそも、普通は高品質なものを作れば高く売れるし、より良いものを作ろうと努力しますよね。ですが、そんな当たり前の市場の原理が働かないのが、カカオの取引市場なんです。 生産者とは遥か遠い、ロンドンとニューヨークの国際市場で日々カカオの価格が一方的に決定されています。つまり、農家が丹精込めて良質なカカオ豆を作ろうが、適当に栽培してあまり質が良くないカカオ豆を作ろうが、それに関係なく、豆の価格は毎日変わってしまうんです」
「良いものを作っても、高く売れるわけではない…と」
「はい。農家にとっては、手間をかけても価格が変わらないのであれば、やる気は失われてしまいますよね」
「そりゃそうですよね」
「だから、直接インドネシアの農家さんたちと契約して、品質の高い豆を作ってもらい、それを適切な価格で買い取るということが出来れば、インドネシアのカカオ農家も変わっていくのでは……と思いました。
「韓国でインドネシアのカカオのことを知ってからの、行動力がすごいですね…」
「2011年にDari Kを立ち上げ、5年前からずっとスラウェシのカカオ農家さんに想いを伝え、直接契約を結び、栽培や発酵方法を教えていきました。そして良い豆にはインセンティブをつけて買い取ったりと、様々な施策で適正価格を追求したりしたんです。でも…」
「やはり彼らにとっては、、これまでにないやり方です。高い報酬はいらないから、これまで通りで良い……といって離れていく農家さんもいらっしゃいました。 でも、そんな中でもモチベーション高く取り組んでくれる農家さんもいて。今はそんな10人の農家さんと契約して、彼らが手間をかけて育てたカカオ豆を仕入れさせてもらっています。 その結果、僕たちはサロンデュショコラinパリでも、2年連続でアワードを受賞することが叶いました」
「すごい…!」 そんなお話を伺ったあとは、また車で小一時間ほど進んでいき、いよいよカカオ農園に向かいます。
30分走って到着したカカオ農園! ここで出迎えてくれたのは、Dari K契約農家の一人であるTummingさん。 Tummingさんの案内で農園に入っていくと… こんなふうにビニール袋で覆ったカカオの実を発見。このビニール袋は、害虫から守るためなんだそう。この袋をかぶせるだけで、95%の害虫予防になるんだとか。 そして、私たちもカカオの収穫体験をさせてもらうことに!
枝が太いので、しっかり両手でハサミを握ります。 カカオ狩りを楽しむ、カメラマン平野くん。 (カカオ狩り中にTummingさんがヤシの木に登ってココナッツの実をとってくれたので、それをいただく私。ゴクゴクと飲み干した後は、そのまま内側の皮を削いで食べられます!) みんなで収穫したカカオがこちら!色とりどりなのは、インドネシアのカカオ農園には、様々な種類の苗木があるからだそうです。
カカオを割ると… 中から白い果実「パルプ」が出てきます。このパルプ、食べるとちょっと甘くて爽やかで美味しい!
「なつかしい!マンゴスチンみたいな味ですね」
「マンゴスチンってなんですか?」
「南国にあるフルーツ!」
ここでTummingさんの農園を離れて、Dari Kさんの発酵施設に向かいます。
カカオを割っていくと、時々このように品質の悪い黒いパルプも混じっているので、1つずつ丁寧に取り除きます。 黒いパルプも食べられるものではあるのですが、Dari Kさんのカカオ豆には高品質な白いものしか使っていないそう。 聞いてみたところ、農家さんたちは黒いものも廃棄せず、別の場所で売っているそうです。 …1時間ほどかけて、すべてのパルプの選定が終了。スタッフの最終チェックを経て重量を計測したのち、香り豊かなチョコレートには欠かせない発酵作業に進みます。
バナナの葉っぱを切って、その上に麻袋を敷き詰めて1週間ほど発酵させます。 チョコレートの風味に大きな影響を与える発酵作業ですから、それぞれの農家さんのカカオの特徴に合わせて、発酵方法や期間は微調整している……というこだわりっぷり。
最後の工程は乾燥です。ビニールハウスの中に種を敷き詰めるのですが、中はサウナ状態…。めちゃくちゃ暑かったです。 そして、およそ4〜5日間かけて乾燥させた種はこんな感じ。 パキッと割って食べてみると、ちょっと苦めのチョコレート味。砂糖がなくても、すでに美味しいのにはびっくりでした!
そして、乾燥した豆を麻袋に入れて… ラベルに細かな情報を記載し、日本に出荷!京都でチョコレートへと加工されます。
「カカオ農家は最貧困層が多く、チョコレートを食べたことがない」と言われていますし、ここスラウェシ島でもまさにそんな状況だったそうです。でも、Dari Kさんとの協業によって、確実にカカオ農家さんたちの生活が変わってきています。 Dari K吉野社長のカカオへの熱い想いに共感し、高品質なカカオ豆を栽培する、スラウェシ島の農家の方々。 吉野社長は、現地でチョコレート作りも行い、実際に農家さんに完成したチョコレートを食べてもらっているんだとか。 お会いした農家さんはみんな、「良いカカオ豆を作りたい!」というプライドを持って働かれていました。数年前まで、発酵の工程を飛ばして作っていた…というのが信じられないくらいです。 そして同じく、数年前まで金融アナリストだった…というのが信じられない吉野社長。すっかりこの島に馴染んでおられました(お住まいは京都ですが)。 スラウェシ島のカカオ農家の方々にとって、吉野社長との出会いはきっと人生を変えるものだったはず。 ちなみに「Dari K」という社名の由来は、スラウェシ島の形がアルファベットの「K」になっていることから。また、Dari Kさんの拠点である京都の「K」でもあります。 そして「Dari」 はインドネシア語で「~から」という意味だそうです。つまり… 「スラウェシ島から、京都から。カカオを通じて世界を変える」 そんな吉野社長の想いが、Dari Kという社名に込められているんだそうです。 雨季でも本当に蒸し暑い、スラウェシ島のカカオ農園。そして、そこから世界を変えようとしている吉野社長や農家の方々ともお別れし、私たちはまた、片道30時間かけて東京に帰ります。 そしてBAKEでは……Dari Kのカカオ豆のチョコレートを使った、チョコチーズタルトが完成しました。 2017年のスペシャルなチョコチーズタルトは、2月3日(金)からBAKE CHEESE TART国内全14店舗で販売開始! 詳細は、バレンタイン限定の特設サイトをご覧ください。(BAKEのWEBチームが気合を入れて制作していました。チョコレートがとろけます!)
私はこの香ばしいチョコチーズタルトを食べると、やっぱりスラウェシ島での2日間を思い出します。(Wi-Fiもなく、シャワーは調子が悪くてお湯が出ない…というややヘビーな旅でしたが)あ〜〜、楽しかったなぁ。 Dari Kさんは、不定期でスラウェシ島へのカカオ農園ツアーも企画されているそうなので、興味が湧いた!という方はぜひ、ブログでチェックしてみてくださいね。 ・Dari K to the World おまけ。平野くんは初めての海外出張に大変緊張していたようで、帰国後調子が乱れていました。ドンマイ! 海外出張が多いBAKEの海外事業部では、「胃腸が丈夫で、飛行機でもぐっすり眠れる」人材を募集中ということです(笑)! ・目指すは「お菓子のApple」海外事業本部メンバーをWanted! それでは、最後まで読んでいただきありがとうございました〜! ・photos by 平野太一(@yriica) ・text by 清家恭子
・BAKE CHEESE TARTが、タイの国民的スイーツとしてこんなにも愛されていた…! ・ビジネスメールも、会議も、残業もいらない。世界1000店舗展開を目指す、BAKE海外進出の中心人物! ・宇宙工学、広告代理店、起業、そして事業譲渡。色んな道を経験した35歳の今、お菓子屋さんに転職してチームを育てる毎日
THE BAKE MAGAZINEでは週に2回、食や農業、デザイン、サイエンス、テクノロジーなどにまつわる記事を発信したり、BAKEの活動や働く人たちのストーリーをお伝えしています。
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