こんにちは! THE BAKE MAGAZINE編集長の塩谷(@ciotan)です。世界一好きな料理はタイ料理です。 なのです、が。 先日BAKEでタイ出張にいったとき、こちらの美味しそうなローカルフードを勢い良く食べたところ… アアアアアッ!!!! という感じで、信じられない辛さと痛さで、まったく口に入れられませんでした。 これまで私が大好きだった「タイ料理」は「日本人の舌にあわせたタイ料理」だったんですね。ショックでした。でも、日本人であの辛さをバクバク食べられる人、ほとんどいないと思います……。 (※ただ、その後いただいた「辛くないタイ料理」はめちゃくちゃ美味しかったです。あと、都心部のタイ料理はあまり辛くないそうで、田舎にいくほど辛いそう) さて。同じものを口にしているはずなのに、国ごとにも、そして地域ごとにも感じ方が異なる「味覚」。 日本人が「美味しい!」と思う食べ物でも、ところ変われば「薄味!」となってしまうこともあるようで……その最たるものが「イチゴ」だそうです。 ここからは、国内外で施設園芸や植物工場をどんどん展開されている、一般社団法人イノプレックス代表理事の藤本真狩さんに「日本のイチゴと、世界のイチゴ」についてご寄稿いただきました。 めくるめくイチゴの世界。どうぞご覧ください!
こんにちは、藤本です。本日は「日本のイチゴは、世界でどう受け入れられるのか?」というテーマで解説したいと思います。 日本国内では、他の作物と同じく農家の高齢化などにより、イチゴの生産量は減少傾向にあります。しかし、世界全体におけるイチゴの生産量は増え続けています。生産量ランキングでは、米国と中国の2カ国が全体の半数を占めており、その他にもトルコ、スペイン、エジプトなどが産地として挙げられます。
日本の生産量は減少傾向…とはいえ、面積あたりの収量では増加傾向を示しており、イチゴの品種改良や栽培技術は世界でもトップクラスといえるでしょう。 日本のイチゴで有名な品種といえば福岡県の「あまおう」や栃木県の「とちおとめ」がありますが、その他にも静岡県の「紅ほっぺ」、佐賀県の「さがほのか」など、各県単位で競争するように新しい品種が開発されています。 高級イチゴという点では福岡県の「あまおう」に負けている感があった栃木県も、「スカイベリー」という新たなイチゴ品種を2014年から販売スタートさせ、販売当初は有名芸能人を起用した大きなPRイベントを行うこともありました。
日本のイチゴはこうした厳しい競争環境にあるからこそ、技術革新が生まれ、高い糖度を誇り、世界でもトップクラスの地位を確立していることは間違いありません。
大粒・高糖度でジューシーな日本のイチゴ。想像しただけで私たち日本人は食べたくなりますが、果たして私たちが普段、食べている日本のイチゴは海外の人も同じく「食べたい!」という意見を持つのでしょうか? 答えから言うと「ケース バイ ケース」です。 まず、海外で、日本の大粒・高糖度イチゴを普及させるためには、イチゴを生で食べる文化があるかどうかも重要となります。
実は、イチゴの形状のまま生で食べる国は、世界の中でも中国(香港・台湾も含む)、韓国、タイ、マレーシアといった一部のアジア諸国にほぼ限定されています。 ですが、上記のようなアジア諸国では、現地で日本のような甘いイチゴはあまり栽培されておらず、酸っぱいイチゴが主流です。そこで、「大粒・高糖度でジューシーな日本のイチゴ」は人気を得ています。 マレーシアやシンガポール、中国・香港・台湾などのアジア諸国にて、高級スーパーを見れば、日本産のイチゴが1パック(日本のスーパーで良く見る内容量250gぐらいのサイズ)が1,000円以上で販売されています。贈呈用などの高級パッケージ商品では、同サイズでも数万円にて販売されることも珍しくありません。 こうした高価な日本産イチゴを購入する消費者は、もちろん高所得者層。海外における販売戦略では「価格」も重要なファクターの一つです。
アジア圏では高級品として高所得者層から人気である、「日本の甘いイチゴ」。しかし国が変われば、その受け入れられ方も変わります。 私が代表を務める食・農業ビジネスの調査・コンサルティング会社の「イノプレックス」では、過去にインドの南部にあるバンガロールで、ハイテク温室ハウスによるイチゴ栽培の建設支援を行った経験があります。 そもそもインド人は、イチゴを生では食べません。さらに、ジャムなどの加工用でもイチゴを食べる文化・風習はありません。(ここでは、あくまで欧米諸国への留学経験のない、ローカルな一般消費者を想定しています) ですからまずは、イチゴ栽培をスタートするにあたって、「インド人の舌にどんなイチゴが受け入れられるのか?」という試食会を行いました。 現地のインド人に対して、日本・韓国・米国などで栽培されたイチゴを試食してもらったところ… なんと、大半のインド人が、日本のイチゴを含む全てにシロップをかけて食べてしまいました。 インド人には、日本の糖度の高いイチゴも「全て甘くない」と判断されてしまったのです。 なぜでしょうか? インドの方々は、ほぼ毎日カレーなどの豊富なスパイスを使用した料理を主食とし、さらに砂糖がたくさん入ったスイーツを食べています。 そんな食文化のある国では「イチゴ本来の繊細な甘さ=美味しい」という感想ではなく、「甘さが少なく物足りない!」という意見が多かったのです。 このショッキングな調査結果を受けて、「日本の甘いイチゴをインドにも!」という計画を立てていた私たちは方針を大きく変更し、栽培が難しい日本の品種ではなく、栽培が簡単な米国のイチゴ品種をインドで生産することにしました。
採用した米国のイチゴ品種は、インドのような高温でも栽培が可能であり、収量も飛躍的にアップします。ただ小粒で非常に酸味が強いもので、生食には向いていません。イチゴを生食する文化のない米国では、主にジャムなどの加工品に多く使われています。 しかし、インドではジャムを食べる文化もありません。インド人に「イチゴ」を受け入れてもらうために、どうすれば良いか? 酸味の強い米国品種のイチゴを収穫し、その後一度シロップに浸すことにしました。 イチゴそのままの形で、「生食イチゴ(シロップ・コーティング)」として販売する……という日本ではあり得ない売り方を提案したのです。 この商品は現地のスーパーにて、日本と同じくらいの内容量250g商品を90円前後で販売したところ、スイーツ商品を扱うお店でも好評。味は違えど、インド人に「イチゴ」を受け入れてもらうことに成功しました。
さらに、インドでは一部の高級ホテル・レストランを除いて、庶民が通うようなパン屋ではショートケーキの上にある赤い飾りは、甘い砂糖菓子になっています。その砂糖菓子を、「生食イチゴ(シロップ・コーティング)」へと切り替えをはかったのです。 日本人からすると、「生食イチゴをシロップ漬けにするなんて邪道だ!」という意見もあるかもしれません。ですが、日本の寿司が世界各地で様々な商品にアレンジされているように(現地ニーズに合った形で進化を遂げている、ともいえる)、今までの固定観念を捨てて、ゼロから考えることも、魅力ある食材を海外に売り込むためには必要かと思います。 その国で食べられる文化がないものを持ち込むとき。 そこで暮らす人の文化風習、調理法、そして嗜好性などを調査・分析した上で、今回のように現地の利用方法や嗜好性に適した品種・形・味に変えていくか。もしくは、現地の食習慣・意識を変え、新たな利用方法を根付かせるか。 もちろん後者は、かなり難易度の高いイノベーションです。自分自身は変えずに、相手に変わってもらうように働きかけるような感じですので、長期的な計画が必要です。 今回はインドでの事例をご紹介しましたが、過去にはマレーシア市場でのイチゴ商品の可能性についてもご紹介しています。ご興味を持たれた方は、ぜひこちらもご一読ください。 ・マレーシア市場におけるイチゴ商品の可能性
・オリエンタルランド、ディズニー向けイチゴを北海道・ハウス高設栽培にて自社生産 ・横田ファーム 千葉産イチゴがマレーシアへ試験的な輸出開始 ・マレーシア市場におけるイチゴ商品の可能性 ・いちごカンパニー、人工光型植物工場で世界最大の高糖度イチゴを生産
一般社団法人イノプレックス 代表理事 / 神戸大学経済学部を卒業後、京都大学医学研究科在籍中、2008年にNPO法人イノプレックスを設立、2015年に一般社団法人化。「食・農業」ビジネスを中心に、年間100社以上の最先端技術をグローバルに取材している。近年は、店内で野菜を栽培する「地産地消型レストラン」、体験型・観光農園など農業を通じて人々を楽しませる「アグリテイメント」、環境に配慮した町づくり「環境都市・スマートシティ」にも力を入れている。