こんにちは。以前、BAKE台湾出店時にレポーターを担当してました、田中伶( @TanakaRei_vd )です。BAKEの中の人ではないのですが、またもご縁をいただいて再登場です。 これまでのTHE BAKE MAGAZINEには、農家さんのストーリーをお伝えする記事もありましたが……ぜひ、全国に知ってほしい農家さんのお話があるんです! 皆さん「ル・レクチェ」って知ってますか? 明治36年にフランスから日本に持ち込まれて以来、地元でひそかに絶品として愛されてきた最高級の洋梨「ル・レクチェ」。ラ・フランスと同じ西洋梨の仲間だそうですが、苗木を植えてから6年以上は収穫ができないなど、栽培が難しく生産量も少ないため、現在は本場のフランスでも生産はされていないんだとか。桃のようなとろける食感と芳醇な香り、濃厚な甘みを持つのが特徴です。 美しく薔薇の形にカービングされた「ル・レクチェ」は、まるで貴族だけが食べることを許された果実のよう…! そんな「幻の洋梨」を日本で生産している場所が、新潟県三条市にありました。 実は新潟県こそが、全国の9割を占めるル・レクチェの生産地! この「幻の洋梨」についてもっと知りたい!どんな風に生産されているのか?この目で見てみたい……! ……そんなわけで、新潟県三条市にやってきました。 約80年以上にわたって受け継がれてきた技術を持つ”三条果樹専門家集団”は、それぞれに代々続く果樹園を持つ梨のプロフェッショナルでありながらも、ル・レクチェをさらに広め地元を盛り上げようと結成されたチーム。 美味しいル・レクチェが生まれた背景、生産を支える独自の技術や農業という仕事の醍醐味、その裏側を、たっぷり教えてもらいましょう!
早速ですが、なぜ「ル・レクチェ」が新潟県で生まれたんでしょうか?
栽培が難しいとずっと言われてきたル・レクチェですが、実は新潟県って、フランスと気候がとてもよく似ているんですよ。
えっ、フランスと新潟県が? どういうところで似ているんでしょう。
私たちがいる大島(おおじま)地区は、日本一の長さの信濃川、五十嵐川・中之口川という3つの川に挟まれた、独特の地形を持っています。フランスも、ライン川やセーヌ川など、国を横断する川がいくつもありますよね。この川が上質な土やミネラル豊富な美味しい水を運んでくれるので、梨やル・レクチェを始めとした、瑞々しい果物を育てることができるんです。
そういえば昔、ル・レクチェを使ったお菓子を新潟のお土産にもらったことがあるような……?
僕らが生産を始めたのは先代からなのですが、ラ・フランスを上回る上質な味わいが人気を呼び、最近では新潟県全体でも「ル・レクチェを名産としてしっかり押し出していこう」という動きが拡がってきました。僕らのつくるル・レクチェの一つは、先代から作っていた二十世紀梨に「接木(つぎき)」して誕生しています。
接木(つぎき)….?
木を切って、別の品種の木を接着するんです。もともとは二十世紀梨という、いわゆる和梨の木ですが、接木したその枝の先からは洋梨の「ル・レクチェ」が育ってきます。
そんな魔法みたいなことが!
接木したところから新たに枝が広がるまでに何年もかかりますが、樹齢90年の強い木に接木したこともあり、今となっては一つの木だけで1000〜2000個のル・レクチェの実をできるようにまでになっていますよ。
1つの木から2000個も!?すごいですね。 でも、そこまで実をつけられるには長い苦労があったかと思うのですが……ル・レクチェという希少な品種を取り扱うには、プレッシャーもあったのでしょうか?
プレッシャーというか、大失敗があったんですよ。父親が3年以上前に接ぎ木してようやく新たに生えてきたル・レクチェの枝を、それに気づかず切ってしまったこともあります。
えー!!やっと生えてきた木を!
それはもう、今後の収穫量を変えてしまう大事件です。そこに至るまでに何年もかけてきたのに……
私たちの仕事だと、「完成間近の来週のプレゼン資料、全部消しちゃった…」とかで絶望したりしますが、それとはお話の規模が違いますね…(汗)。数年後の収穫という長いスパンで考えながら、今日の作業を進めていくと。
そうですね。普通の仕事なら、10年もやっていればそこそこのスキルをつけられると思いますが、農家の仕事の場合、仮に十年この仕事をしていたとしても「収穫」というバッターボックスは十回しかまわってきませんから。
ひえええ!想像もつきません……
「収穫」というバッターボックスは1年に1度……。けど、果樹集団の皆さんは、自由が丘のマルシェやネットを通じた直接販売など、新しいことにも毎年どんどんチャレンジされていますよね。
農業というのは、同じ仕事をしていても数字が下がる、という厳しい世界なんです。天気などの影響もそうですが、それ以上に市場や経済の動きも大きく影響してきますから。リーマン・ショックの時なんて、前年と同じだけ働いて、同じだけの質・量を生産していても、年収が10%下がって大変でしたね(笑)。
うちは、僕の父親の代の頃は100%農協に卸していました。収穫した果実はすべて農協に出して、そこからの作業に関わることはなかった。このままじゃいけないと思ったのは数年ほど前です。 自分たちでネットを通じた提供したり、近隣のスーパーへ直接卸したり、マルシェでの出店をしたり… 正直どれも、父親の猛反対と戦う日々でした。
お父様といえども、農業の師匠と戦うのは、なかなかハードなことですよね…??
でも、自分が動けなくなってからじゃ遅いんです。若いうちにどれだけ父親とぶつかり合えるかが、未来を決めるといっても過言ではなかったです。新しいチャレンジを続けることは大変ですが、これまでと違って、消費者の方の顔が見えるようになったのは大きいですね。 果実の味や質を目の前で評価されるので、美味しいものを作らなければという良い緊張感の中で仕事ができます。
なるほど。お客さんの顔や反応が見える・見えないって、私たちインターネット中心の仕事でも、近いところもあるかも…。
さて、丹精込めて作られたル・レクチェ。 今年の収穫はまだ先なので、昨年のル・レクチェで作った贈答用のコンポートをいただきました。こちらはホテルなどを対象に販売されている「カービング ル・レクチェ」というもので、果実を美しくカットする伝統的な技術が使われています。 贅沢の極み!惜しみながらも、ぱくっと一口で食べてみると! んんんんんんん〜〜〜 んんんんんん゛〜〜〜〜! うんまーーーい!!!!(涙) 初めて食べたル・レクチェ。桃のようなまろやかな食感。圧倒的な甘みと、鼻の奥にふわっと広がる芳醇な香り!なんて贅沢なんだ……。 ちなみに、今年分のル・レクチェの収穫は9月頃からスタートするそう。現在はひとつひとつの果実が丁寧にカバーがかけられ、太陽の光が当たり過ぎないように品質管理されていました。一面に広がるル・レクチェは、圧巻!
さて今回、実際に生産者の方に会ってお話を聞いてみて、「生産者の顔が見えるとさらに美味しい!」と言わずにいられないのは、その裏にある生産者さんたちの果物への愛や挑戦を感じられるからなんだと分かりました。 代々100年以上も守られてきた「物語」に、自分が消費者として関わるということは、これからもずっと続くこの物語を、一緒に紡ぐ一員になるということ。
とはいえ、さすがに食べるものすべての生産者さんに、気軽に会いに行ったりできない!という方に朗報です。こちらのページから土田さんたちの生産の様子を覗いたり、ル・レクチェの期間限定のオーナーになることができます。
12月には、愛情たっぷりに育てられたル・レクチェが、事前登録されたオーナーさんのもとに届けられる……上に!私のように、実際に生産地へ行って収穫をお手伝いさせてもらうことも出来るんです。 現在は、ル・レクチェや和梨のほかにも、長野県信州の巨峰やりんご、高知県四万十市の地栗、北海道むかわ町の熟成チーズ、青森県の天然クロマグロのオーナーになれるプラン等も公開されています。中には”オーナー専用の区画”を用意してくれている生産者の方もあるので、「これが私の所有している樹だ!」と愛着が湧いてきます(笑)。
こちらは、牡蠣のオーナーに登録された方の声!
夏に25個、冬に40個も牡蠣が届いて1万円ということで即申し込んだわ。さらに大量に届く3万円コースもあった。 OWNERS | 【1~2人向け】人にも自然にも愛される糸島で育つ、豊久丸の濃厚な”みるくがき” https://t.co/zOtnRCs1Kz
— あこさん(本名ではない) (@aco220) 2016年2月28日
初めてオーナーに登録した直後のドキドキ。
来月この牡蠣が届くの楽しみで仕方ない…みんな、うちで牡蠣パしような… OWNERS | 【満員御礼】〈1~2人向け〉人にも自然にも愛される糸島で育つ、濃厚な”みるくがき” https://t.co/zOtnRCs1Kz — あこさん(本名ではない) (@aco220) 2016年6月21日
申し込んでから4ヶ月、リアルタイムですくすくと育つ牡蠣に、そろそろ届くというワクワク。
OWNERSで支援してる豊久島オイスターファームさんから糸島の牡蠣10個と世界の牡蠣計15個が届いたので、本日は牡蠣パです! https://t.co/Fvo7VY4X87 pic.twitter.com/sV2VhGwT3n
— あこさん(本名ではない) (@aco220) 2016年7月13日
ようやく手元に!ついに食べられる瞬間!
彼氏「この牡蠣、おいしすぎて怖くなってきた」 — あこさん(本名ではない) (@aco220) 2016年7月13日
ごちそうさまの様子…!! 他にも、「届いた!」という声を見てみると……
冬頃にツイッターで見掛けて秒でオーナー登録したOWNERSの豊久丸オイスターファームから待ちに待った牡蠣が届いたー!!!!!???? pic.twitter.com/yiAypr7hsC
— 人妻幸子。 (@hitozumasachiko) 2016年7月13日
OWNERSでオーナーになったみかん農園からみかんジュースが届いた!忘れた頃に届くの嬉しいな!また新しくオーナーになりたいな〜 pic.twitter.com/vNcVj1hfHr — マキヒロチ (@makihirochi) 2016年7月12日
OWNERS ( @OWNERS1201 )で届いた石井酒造の夏の純米吟醸酒、豊明の向日葵がおいしすぎて大騒ぎしている。ミョウガと大葉塩もみしただけのおつまみと最高に合う。季節の商品が届くって楽しいなあ。 pic.twitter.com/A7paJVL7Qp
— 田中 裕子 (@yukotyu) 2016年7月10日
……という具合に、みんな首を長くして待ってます。定期的に届くプランでは、忘れた頃に届くので、長期的に関わっている生産者さんからプレゼントが届くようで嬉しい。 OWNERSはamazonお急ぎ便みたいな「数時間で届く!」というサービスとは、真逆。何ヶ月も楽しみに待って、ようやく完成した農作物などなどが自宅に届きます。これはけっして「便利」なものではありません。 しかし、四季折々にあわせて大切に作られた一番美味しいものを大切にいただくということの幸せや、次のシーズンを楽しみに待ちわびる時間の贅沢さ、そうしたことを知るということが「生産者の顔が見える」本当の魅力なのかもしれません。 私がオーナーになっているル・レクチェも、今はこんなに小さくて青い実ですが、暑い夏を乗り越えて、冬を迎える12月に我が家にやってきます。楽しみ!大事に大事に、育ててもらうんだよ〜! 最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。生産者の方の情熱が、皆さんにも届きますように!(Text by 田中伶 @TanakaRei_vd ) 関連リンク:コミュニケーション型オーナー制度プラットフォーム「OWNERS(オーナーズ)」
・「紀元前から続くビジネス」に一生をかけて挑み続ける、農家のイノベーターとは?(十勝しんむら牧場) ・美味しいチーズの裏側に、私たちの知らない農家の現実がありました ・株式会社BAKE 採用情報 ・株式会社BAKE Facebook
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