こんにちは! THE BAKE MAGAZINE編集長の塩谷です。 先日、インターンのたるちゃんこと樽見が「おいしいお菓子を科学的に作れないものか…」と試行錯誤していましたが、今日はその分野の先生にご登場いただきます。 分子調理学者であり、宮城大学食産業学部・准教授の石川伸一先生です! 宮城から東京・自由が丘のBAKEオフィスまでいらしてくださいました。感謝感激であります。 BAKEからは、代表・真太郎さん、広報・阿座上さん、そして私が並んでお話を聞くことになりました。
「「「よろしくお願いします!」」」
「知ってます!分子調理って、ヨーロッパで生まれた分子ガストロノミーってやつのことですよね。なんか人工的な卵みたいなやつを作る、実験動画みました。おいしくなさそうだなって思いました」 ↓↓↓↓↓
「厳密に言えば、違いますね。」
「えっ」
「ニコラス・クルティ氏とエルヴィ・ティス氏によって提唱された分子ガストロノミーは、現象のメカニズムを見出すこと、つまり知識を生み出すことそのものを指しています。一方で、私が研究している『分子調理』はおいしい料理をつくるためのメカニズムを分子レベルで調べることに加えて、さらに、その原理を応用して新しい料理をつくったりすることと定義しています」
「つまり……テクノロジーの進化を目的にしているのか、メカニズムの解明に加えてお料理の進化などを目的にしているのかで、異なるんですね!」
「そういうことですね」
「おいしさの科学…というと欧米が中心で、日本ではそこまで一般化していないイメージなのですが、日本の大学でも他に分子調理を専門にしている研究室はあるのですか?」
「いやいや、分子調理という分野でくくるなら、私くらいでしょうね。でも、海外でもシェフがこれまでにない手法で新しい料理を作るというジャンルは勢いがありますが、科学的な解明でわかったことを新しい料理に応用する…といったサイクルは、まだまだうまく回っていないんです。」
「そうなんですね。でも今後は必ず増えていきますよね。石川先生は、科学的なアプローチから生み出される食べ物って、どんな可能性があると思われていますか?」
「そうですね。味・香り・食材などの組み合わせのみで新しいものを生み出すというのは、すでに多くのシェフの方々が挑戦されています。だから科学的なアプローチでは、硬さや柔らかさ……つまり”新しい食感(テクスチャー)”というものを特に作り上げられるんじゃないか、と思っています」
「食感の発見ですね!でも食感って、科学的にどう表現するんでしょう?同じ硬さだとしても、“コリコリ”と“ザクザク”では、全然体感が違いますよね。」
「そう。硬さを測る『テクスチュロメーター』という機械はあるのですが、そこで出る数値よりも、”ザクザク”とか”コリコリ”などのオノマトペの方が的確な表現が出来る場合は多いと思います。」
「じゃあ研究室でも、トロトロ、ふわふわ、サクサク、シャキッ……みたいなのを多用しているんですね?なんだか面白いですね!……でもそれって、海外に持って行くときはどうやって英訳するのでしょう???」
「国際的に、テクスチャー用語の標準規格も定められていますが、食文化の背景も国によって異なるので、難しいんですよ。アメリカ人が使う“crispy”などの食感を表す用語は、合計75語。それに対し、日本人が食感表現に使っているオノマトペをはじめとした言葉は5倍以上もあったという報告も。その続きはcookpadニュースに書かせていただきました」
「先生、cookpadでもコラム書いてらっしゃるんですね。」
「ちなみに、”味”や”におい”に関しては、数値で表現出来るものなのでしょうか?味覚センサーなど、様々な器具があると思うのですが……」
「はい。もちろん、味覚も嗅覚も様々な側面からセンサーで測って、おいしさと関連のある要因を推定することは、科学的には可能です。ただ、やっぱり人の官能検査が一番信頼できるんです。もちろん個人差があるので、50〜100人くらいに味わってもらって、機械と人の両方でおいしさを見つけていくことがベストですね」
「ふむふむ」
「成分や食感という側面はもちろん大事なのですが、そこだけでは片手落ちです。おいしく感じているということを本当に理解するためには、感覚的・感性的なところを学ばなければいけない。美学や感性学、哲学を研究されている方と一緒に研究すれば、おいしさの全体像が見えるのではないか? とも思っています」
「そういえば!先日渋谷のFab cafeで、ものづくりの視点からおやつを作ろう!という「THE OYATSU」というイベントで、レーザーカッターで薄いリンゴを蝶々の形に切ったお菓子を食べたんですよ。有名なレストラン『セララバアド』の橋本宏一シェフと、デザイナーの方が一緒に作ったものらしいのですが、おいしかった以上に、嬉しかったんです」
「レーザーカッターや3Dフードプリンタも流通してきていますよね。3Dプリンタと手作りのときの違いなどがまだまだモヤモヤしているのですが、そこをちゃんと説明できるようになれば、よりおいしさの真髄に迫れるだろうと思っています。あたらしい料理というジャンルですと、大阪にいらっしゃるシェフ、米田肇さんの活躍にも注目しております」
・米田 肇 誤差0.5ミリ以内で皿に「地球」を描く。遅れてきた料理人は、美意識とこだわりで三つ星をつかんだ。
「また京都には日本料理アカデミーという京都の料亭の方々が中心になったNPO法人があり、京都大学の研究室と一緒に料理研究を行っているんです。出汁をとるのにも何度で何分昆布を温めれば最適か…というデータが算出されていて、それぞれの料亭でもそのデータが活用されています。歴史ある京都の料理人の方々ですから抵抗があるのではと想像していたのですが、ものすごくすんなりと受け入れている姿を目にして、純粋にすごいと思いました」
「いろいろと挑戦したくなってきたのですが、分子調理はなかなかハードルが高そうです。今すぐ、ご自宅でもできます!という初級分子調理、というものはあるのでしょうか?」
「その要望は多いのですが、やはり家庭で揃えられる機械には限界があるので、なかなか難しいんですよね。大学に設置してる遠心分離機※も最低数十万円はするので、ご家庭で使うのはあまり現実的ではないかと…。でも、専門店で販売している添加物を活用したり、液体窒素のかわりにドライアイスで冷やしたり……といった形で、実験的なことは出来るかもしれません」
「ただ、研究室の学生が今卒論に書いていることは、取り入れやすいですかね。昔から言われていることですが、卵を泡立てるとき、ステンレス製のボールよりも銅製のほうが泡立ちがきめ細やかになることがわかっています。銅の成分が若干染み出して泡の安定性に変わるといわれていますが、そのメカニズムはよくわかっていないんです。泡立つスピードは遅くなるのですが、泡の安定性はかなり良いですね」
「ぐぬ…ボール1つで3万4千円……。ちなみに話がちょっと脱線しますが、私の母が『ルクルーゼの底がハゲたけど、そのぶん鉄分が染み出して健康に良いからOK』という斜め上の主張をしてきたのですが、そういうものはありえるのでしょうか?」
「部分的に南部鉄器のようになっている、ということでしょうか?うん、断言はできないですけど、少量の鉄が染み出す程度ならまぁ健康には、良いんじゃないでしょうか(笑)。」
「石川先生は元々、食の健康増進機能を専門にされていたんですよね。どうして今はおいしさの研究にシフトされたんでしょう?」
「おいしさの研究は大学時代からの興味分野ではありましたが、なんだかグルメ的なものでしょう。だからあくまでも”趣味”として続けていたのですが…2011年の大震災のときです。私たちの住む宮城県は被災して、支給されたパンを食べていました。食べるものがあって有難かったですし、パンが美味しくない訳ではないのですが…。 でも、辛いときほど、おいしいものって大切だな、と心底感じたんです。そこからは趣味とは言わずに、おいしさを研究することを正面から取り組むようになりました。成分や香りの検証はもちろんですが、感性的・精神的な部分も探っていきたい。理系的なアプローチと、文系的なアプローチを両立させていって、おいしさの全容を知りたいんです」 – – 「どうしておいしいの?」という問いに、日々真正面から研究を進めている石川先生。これからどんなおいしいを生み出していかれるのでしょうか。 もっと知りたい!という方は、ぜひこちらの一冊もぜひ、お手にとってくみてください!
・滑らかな舌ざわりのおいしいアイスクリームをつくる「液体窒素」 ・あらゆる料理を分類し、新しい料理の発明にもつながる「料理の式」 ・香り成分をデータベース化し、意外な食材を組み合わせる「フードペアリング」 ・食材をつなぎあわせて多彩な食感を生み出す「トランスグルタミナーゼ」 ・火を使わないから食材をナチュラルに加工できる「超高圧加工技術」 ・食のテーラーメイド化も夢ではない! ?「3Dフードプリンタ」 ・料理と科学のおいしい出会い: 分子調理が食の常識を変える (DOJIN選書) 石川 伸一 (著)
・飲食×テクノロジーは当たり前?海外の食ビジネスが、こんなに進化しています! ・コ・クリエーションやラボなど、お菓子のスタートアップBAKEが2016年に挑戦したいこと ・飲食業界のベンチャー・スタートアップが過熱しています! ・エンジニアからキャリアチェンジしてパティシエになりたい方、大募集!!(採用情報)
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— 株式会社BAKE (@bake_jp) 2016年6月2日