2022.03.16

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イチゴづくりはチームづくりから。「村田さん家のいちご」が美味しい本当の理由

イチゴづくりはチームづくりから。「村田さん家のいちご」が美味しい本当の理由

2022.03.16

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春といえば「いちご」!スーパーの青果売場やカフェなどで旬の真っ赤な苺を見ると心が躍ります。

「BAKE CHEESE TART」や「PRESS BUTTER SAND」でも、現在、「いちごミルクチーズタルト」や「苺とフランボワーズのチーズテリーヌ」「バターケーキ〈いちご〉」「バターサンド〈あまおう苺〉」といったいちごスイーツが人気。
そして、新ブランド「八 by PRESS BUTTER SAND」でも、春限定の「ばたふく〈苺〉」が連日早々に売り切れてしまうほど大人気なんです。

今回のTHE BAKE MAGAZINEでは、「ばたふく〈苺〉」の苺を生産されている「村田農園」代表の村田和寿さんに、美味しい苺づくりの秘訣や農業にかける想いについてお話を伺いました。

「八 by PRESS BUTTER SAND」の「ばたふく〈苺〉」

“お客様の声”から始まった「村田さん家のいちご」

村田農園さんの苺は「村田さん家のいちご」としてファンも多く、一流ホテルや著名な青果問屋などと多数お取引されていらっしゃいます。「村田さん家のいちご」の特長(違い)を教えてください。

“お客様目線で苺を作っている”という点が大きな違いだと思います。
一般的な農家では、市場に出荷したら終わりという場合が多いので、市場の担当者が褒めてくれる苺であればいいんですよ。つまり、棚持ち(日持ち)が良くてクレームがない苺ですね。

しかし、村田農園では、生活協同組合(生協)さんに出荷していたときに、うちの苺を食べたお客様から手紙をいただいたんです。「美味しかった」という声だけではなく、当然厳しい意見もあります。出荷したら終わりじゃなくて、その先にお客様がいるんだということを考え始めてから、つくり方が変わりましたね。

お客様が求めているのは、完熟で美味しい苺。もちろん完熟をお出しすることはできるんですが、届くまでに傷んでしまう。作り手にだけではなく、食べるお客様にもストーリーがあります。いつ、どんなときに、どうやって食べるのか。そういう背景に目を向けながら作っているんです。

お客様目線でつくる。実践するのはなかなか難しいですよね。村田農園さんは、いつ頃から農園を始められたのでしょうか?

この土地(茨城県鉾田市子生)で農業を始めたのは、80年くらい前、祖父の代でした。元々森林だった土地を畑にして、麦や陸稲(おかぼ)、落花生などの露地物を作っていました。
父の代からハウス栽培でメロンやすいかを作り始め、少しだけ苺も作るようになりました。その頃から、お客様を意識した農園づくりが始まったと思います。
私は高校を卒業してから農園を始め、今年で34回目の収穫期を迎えました。

 

初めは、現在のような苺専業ではなかったんですね。苺づくりに専念されるようになったきっかけは何だったのですか?

茨城県鉾田市は日本一のメロンの産地なんですよ。メロン栽培は春から夏にかけて行うので、冬の間手が空くんです。初めは空いた時間を使って苺を作っていたんですが、お客様から「春先にも苺を出してほしい」というご要望をいただいたんです。

当時は「女峰」という果肉が柔らかい品種が主流で傷みやすく難しかったのですが、果肉が固くて輸送もしやすく棚持ちのよい「とちおとめ」に変わったことで、本格的に苺を作り始めました。
あの頃、メロンが主流の鉾田で5月まで苺を作っていると、「まだやってるの?」なんて変な目で見られていたんですが、今ではよく見かけるようになりましたね(笑)

見えない“こだわり”が生む、美味しさの差

全国一のメロン産地ということは、鉾田市は果物づくりに適しているのでしょうか。

ここは、関東ローム層の中でも火山灰の細かい粒子が落ちてきた台地で水はけがよく、日照時間が長い上、昼と夜の寒暖差も大きいので、世界有数の農産地になると言われてきました。
“苺は水商売”と言われるほど、水の加減によって味が大きく変わります。美味しい苺が育つ条件が揃った鉾田の苺は、生産量は栃木県などと比べて少ないですが、味ではどこにも負けませんよ!

 

地の利を活かすだけではなく、土づくりにも力を入れていらっしゃるんですよね。

水はけがよいだけでは植物は育ちません。必要な水分や養分を蓄えることができて通気性もよく、いらない水ははける「団粒構造」を作るのが大切です。
鉾田は養豚も盛んなので、その副産物で堆肥が作れるんです。「土着菌」といってその土地に合った菌を活かした土づくりがやっぱり一番なんですよ。キノコの菌床やカニの殻、糠、もみ殻などを混ぜ合わせ、試行錯誤を重ねて今の土づくりに辿りつきました。

収穫が終わった後、一般的な農家では化学的な薬剤を使って短期間で消毒しますが、うちでは畑に堆肥や糠、菌、水を入れ還元状態を作ってビニールで密閉し、夏の間2ヶ月かけて土の温度を上げることで悪い菌を除きます。最高で50度くらいになるので、ハウスの中はまるでサウナですよ(笑)

私たち消費者からは見えない差が、品質の差になるんですね。

そうですね。うちは苺専業ですから、苺のためだけの土づくりをしています。
収穫期は12月から6月までの半年なので、それ以外の時間「ゴルフでもしてるの?」なんて言われたりもするんですが、土をつくって、苗を育てて・・・一年中仕事はあるんですよ(笑)

苺は、受粉してから42~43日、春先に気温が上がってくると1ヵ月程で赤くなります。農家としては早く収穫できた方がいいんですが、ゆっくり育てた方が味の深みが出て美味しくなるので、ハウス内の温度が上がりすぎないように調節しています。

最近は、ICTを活用したスマート農業も注目されてきていますが、まだまだデータだけに頼った栽培で成功させるのは難しいようです。自然や生物が相手ですから、やっぱり苺の表情を見て苺の声を聴くことが大切ですね。

美味しいイチゴはチームでつくる。次世代に伝えたい、かっこいい農業

苺の表情を見て、苺の声を聴く。繊細で感覚的な判断が求められそうです。

村田農園では、家族や研修生、海外からの実習生など、17名のスタッフがチームになって仕事をしています。毎日みんなでミーティングをして、今日はこんなお客様に届ける苺だから、このくらい熟したものを収穫しようというように、情報共有をしているんですよ。

また、収穫担当・パック詰め担当というような作業ごとの分担制ではなく、ハウスごとに担当を決めて、収穫もパック詰めもみんなでやっています。収穫の仕方によってパック詰めのしやすさが違ってくるので、次の工程のことを考えて仕事ができるんです。効率は悪いかもしれませんが、品質は安定しましたね。

 

苺農園でもコミュニケーションが大切なんですね。

みんなが同じ意識を持つのは難しいので、話すことは大切ですね。研修生や海外からの実習生には、単純に目の前の作業を覚えるだけでなく、何のために仕事をしているのか、先を見据えた教育が一番大事だと考えています。

彼らにとっては実習期間が終わってからがスタート。それぞれの場所で自立して幸せに暮らしていけるための教育、人づくりが大切なんです。
お客様から褒めていただくことで、みんなの仕事ぶりが良くなっていく。その積み重ねがいいチームをつくり、美味しい苺になっていく。相乗効果が生まれていくんです。

村田農園代表の村田和寿さん(オンライン取材の様子)

美味しい苺づくりには、人づくり・チームづくりが欠かせないんですね。村田さんがこれからチャレンジされたいことはありますか?

村田農園の理念は、かっこいい農業をつくり、次世代に伝えていくことです。
私自身は長男だから継いだだけで、農業をやりたかったわけではなかったんです。子供の頃父が事故に遭い、その年のメロンが上手く作れず苦労しましたし、楽な仕事じゃないとわかっていたので。

しかし、実際にやってみたら、すごくやりがいがあるんですよ。お客様に喜んでもらえるのはもちろん、異業種から農業に興味があるという方も研修に来てくれたりして、活躍している姿を見るのも本当に嬉しいんです。

茨城県って、魅力度ランキングで最下位じゃないですか。でも、本当に魅力がないかと言ったらそうじゃない。私自身が農業に打ち込む姿を見てもらったり、講演等でお話させてもらったりすることで、地元の子供たちに地域や農業の素晴らしさを知ってもらいたいんです。
鉾田の農産物は、こんな有名なところで使われている、こんなにたくさんの人たちが喜んでくれている、と知ってもらうことで、次世代に希望を持ってほしいですね。

村田さんの苺づくり、農業にかける強い想いが伝わってきました。お話ありがとうございました。

 

文/真鍋 順子

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「村田さん家のいちご」を使った「ばたふく〈苺〉」

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「村田さん家のいちご」を使った「ばたふく〈苺〉」

「ばたふく〈苺〉」1個 ¥351(税込)は、3~5月※の春限定商品。ばたふくは、北海道産あずきを炊き上げたあんこの中にコクのあるバタークリームを入れ込み、絹のようにきめ細やかな羽二重餅で包みました。(※村田農園の苺は、3月と5月の一部に使用)

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