本インタビューは緊急事態宣言が発令される以前の2020年3月に行いました。
BAKE Inc.では地域に愛されるブランドづくりの一環として、ご当地フレーバー・商品の開発を2018年よりスタートしています。
昨年、九州初の「PRESS BUTTER SAND」の常設店がJR九州博多駅構内にオープンし、九州限定のご当地商品である「バターサンド〈あまおう苺〉」を発売。また2020年3月、BAKE Inc.初のご当地ブランドとなる薩摩スイーツ専門店「OIMON」が鹿児島中央駅直結の商業施設「アミュプラザ鹿児島」にオープンしました。
今回オープンした2店舗は焼きたての商品も提供する工房一体型店舗です。従来の「お土産」のイメージを覆す店舗のオープンの舞台となるのは、年々エンターテイメント性が高まり進化し続ける駅ナカや駅に隣接する商業施設。
今回は九州各地で駅ビル事業を統括されているJR九州駅ビルホールディングス株式会社の渡邊晴一朗社長を訪ね、BAKE Inc.副社長の近藤がお話を伺いました。
近藤:今日はよろしくお願いします。今日は進化する駅ナカや駅直結の商業施設について色々とお話を伺えればと思います。
テナントとして入っている立場として、JR九州駅ビルホールディングスさんからは個店ごとのオリジナリティやチャレンジに対する寛容さを感じています。駅ビルは多くの人が集まり、鉄道というインフラとも共存するので、制限も多いと考えていました。ところが、JR九州駅ビルホールディングスさんの駅ビルでは、チャレンジをいつも応援してくださっている。
たとえば、「アミュプラザおおいた」さんに「RINGO」をオープンさせるのも、私たちにとってはチャレンジでした。私たちのビジネスモデルは1Brand=1Productで商品カテゴリーはひとつです。RINGOは弊社のブランドの中でも店舗数が少ないためまだまだ知名度が低く、1個約400円という決して安くはない価格のお菓子が受け入れられるのか、どこまで継続できるかわからない中で、私たちのチャレンジを受け入れていただきました。本当に感謝しています。何かテナントのチャレンジを応援する理由などはあるのでしょうか。
渡邊:これまで私たちが持ち続けてきた、地域の特性を活かすという思想が、テナント様のチャレンジを応援することにもつながっているのかもしれませんね。
当駅ビルグループは、大型駅ビルの運営会社が7社、中小駅ビルの運営会社が1社あります。昨年4月にそれらの駅ビル運営会社を管理する中間持株会社として、当社を設立しました。Eコマースの急成長や購買動機の移り変わり、少子高齢化、人口減少など、これまでに経験したことのないスピードで変革が進んでいる中で、一つひとつの駅ビルがその変化に対応し、将来に渡って持続的に発展するのは限界があります。
共通する課題や目的に対して、グループ全体のノウハウや人、資金を集約して、変化に耐え得る組織をつくっていくことを大切にしたいと考えています。一方で、地域に根ざし、地域の特性を活かすことも大切にしつつするため、合併はせずに、それぞれの地域の運営会社は残したままホールディングス化という形をとっています。
近藤:その考え方がチャレンジを応援することにもつながっているんですね。御社がテナントを選定される際には、どのようなことを大切にされていらっしゃるのでしょうか。
渡邊:ブランド力や商品力はもちろんですが、 JR九州グループは、「誠実」「成長と進化」「地域を元気に」というテーマのもと、事業を展開しており、そのテーマに沿った取り組みをされているのかを意識しますね。沢山のお客様に支持されることはもちろんのこと、長い目でみた時に誠実にお客様のための商品づくりに取り組んでいるかが大切だと考えています。その点、御社は九州のためにチャレンジングな提案をしてくださっていて、お客様からも高い支持をいただいています。非常にありがたいですね。
近藤:そう言っていただけると嬉しいです。私たちは洋菓子業界で、誠実に仕事をするが故に原価が高騰したり、華やかなショーケースでお客様をお迎えしたいがゆえにロスが増えたりして苦境に陥るケースをいくつも見てきました。洋菓子業界は流行り廃りの早い業界です。私たちはまだ若いスタートアップであるからこそ、流行りのひとつとして動向に注目していただくこともあります。その中で誠実にやっていくこと、モノづくりに正面から向き合い続けていく姿勢を貫くことで、業界全体に良いシナジーを生みたいと考えています。
近藤:博多駅でのオープン前は、食に精通した九州の皆さんに受け入れていただけるか、実はとてもドキドキしていました。まずは食べていただいて、美味しいと感じてもらう、誰かに紹介したいなと思っていただくことが大切だと思っています。新しい土地である博多でも、それが実現できるのかは不安でした。
渡邊:そうだったのですね。実は私は東京駅に「PRESS BUTTER SAND」がオープンした際、すごいなと思っていたんですよ。それ以来、ぜひ九州でも展開してほしいと思ってました。JR九州博多駅構内への「PRESS BUTTER SAND」、アミュプラザ鹿児島への「OIMON」「BAKE CHEESE TART」の出店という形で希望が叶って嬉しいです。
近藤:そうおっしゃっていただけて大変光栄です。「OIMON」は、地元の方に愛されるものを作りたいと考え、チャレンジしました。鹿児島にはサツマイモを使ったお菓子がたくさんあるので、サツマイモ菓子で勝負することはハードルが高かった。そこで「洋菓子の専門店がサツマイモをテーマに、伝統と革新をかけあわせたブランドを作ったらどうなるだろう?」という視点で鹿児島の食材を使い、地元の製造工場さんと一緒に開発を進めて、この商品が完成しました。
渡邊:サツマイモは男女問わず人気の食材ですし、鹿児島といえばサツマイモですね。これは、鹿児島の方のみならず、福岡の方も東京の方も食べたいと思いますよ。
近藤:ありがとうございます!「OIMON」は、伝統と革新をかけあわせたブランドを作りの挑戦です。その過程において九州で新たな方々と交流していて、様々な学びがあります。先日、鹿児島で150年の歴史がある「明石屋」さんのお話をお聞きする機会があったのですが、100年続くブランドは簡単につくれるものではないことを改めて知りました。
それでも、私たちはそんなブランドをつくろうと真摯に向き合っていかなければと思っています。一人でも多くのお客様にファンになっていただくためには、努力し続けなければいけないなと。
渡邊:ブランドは常に進化し続けなければなりませんよね。九州はアジアに近く、古くから東洋や西洋との交流の窓口でした。異文化の人々と交流し、受け入れてきたという土壌がある土地なんです。鎖国時代も長崎の出島は西洋と交流していましたし、新しいものを受け入れて自分たちのものに昇華していくということに長けた人たちが多いんですよ。
九州ではファッションも飲食店も、もちろんお菓子も、新しいお店ができると人が一気に集まります。一方で、飽きるのも早いため、最初は行列ができていたお店も次第に行列がなくなっていくことが少なくありません。その中で支持され続けるのは、ホンモノであることが大前提。それでいて、進化し続けているモノが残っていくのだと思います。
近藤:私たちが店舗を展開するときの考え方として、「あのお菓子が食べたいからあの街へ行く」という存在になれるといいなという思いがあります。今回の「OIMON」もそうですし、博多駅の「PRESS BUTTER SAND」限定で販売している焼きたての「バターサンド〈あまおう苺〉」も、そこにしかない商品です。あれが食べたい、あれをお土産にしようと思って訪れていただけたらいなと思います。
元々九州は、食を含む観光地として注目をされています。九州各地に展開している当社の店舗やブランドが、日本各地、海外からの旅行者も含め、その街を訪れるきっかけになれたらと考えています。
近藤:御社は今後、どのようなことを目指されていくのでしょうか。
渡邊:鉄道は他のエリアに持っていくことができません。その中で我々JR九州グループは、ここ九州で鉄道を中心とした様々なサービスを提供し、九州内の交流人口を増やし、九州と共に成長していきたいと考えています。一人でも多くの方が、働いて良し、住んで良し、訪れて良しと思っていただける九州アイランドにしていきたいですね。
JR九州の「ななつ星in九州」は、国内外から九州にお越しになられる乗客の方もですが、「ななつ星in九州」が走るエリアの皆さんにもとても喜ばれているんです。列車が通るときは沿線の幼稚園児が手を振ってくれたりもします。「ななつ星in九州」が走ることで、地元の人たちが自分たちの土地の魅力を再発見されたんですよね。
また、地域の企業とともに未来への新しい取り組みもスタートさせています。 九州と共に成長するための取組みの一つとしてJR博多シティは、子どもの創造活動とイノベーションを支援する施設「VIVISTOP HAKATA」を今春開設しました。子どもたちが地域の企業や教育機関とともに活動するクリエイティブコミュニティーとして、地域の未来を考えていく場にしたいと考えています。
これからも地元の皆さんに喜んでいただき、地域が元気になれるお手伝いを持続的に行なっていきたいと思っています。そういった取り組みを、御社とも一緒にやっていきたいですね。
近藤:「VIVISTOP HAKATA」東京に帰る前にぜひ見せてください!本日はいいお話を聞かせていただき、ありがとうございました。