2019年10月27日、Design Cross インハウスデザインカンファレンスが開催されました。
「Design Cross インハウスデザインカンファレンス」は、toC領域を軸に事業を行っている様々な分野の企業10社が集結し、クリエイティブに従事するキーマンのブランド立ち上げ秘話や登壇者自身のキャリアの振り返りなどを通して、これからのデザイナーのあり方や、どのようにデザインに向き合っていくのか?を探っていくイベントです。
このイベントにBAKE Inc. ストアデザイン部 部長の勝部竜太朗が登壇させていただいた際のレポートをお届けします。
勝部:みなさん、初めまして。BAKE Inc.でストアデザインを担当している勝部と申します。
今日は、僕たちBAKE Inc.が「お菓子を、進化させる」というミッションステートメントのもと、どんな思いでブランドづくりに取り組んでいるのか、そして店舗づくりにおいてデザイナーが担う役割についてお伝えします。
BAKE Inc.はブランドづくりにおいて、まず商品の開発や店舗、イベントなどを通した「‘わくわく’の創出」を重視しています。そのためには、購買のきっかけを作るデジタルコミュニケーションから商品を開封して食べる瞬間までの「購買体験の追求」が必要不可欠です。あらゆる接点において’わくわく’を届けるために、社内でとことん議論しています。
‘わくわく’を創出し、購買体験の追求を行いながら、常にブランドや商品、美味しさへのこだわりを「いかにお客様に届けるのか?」を考えています。私たちのこだわりを体感していただくことで、ブランドに対して強く共感してくださるファンを増やせると考えているからです。
今回は、BAKE Inc.のストアデザイン部のデザイナーが、どのように店舗デザインに取り組んできたのかを事例を交えながらお伝えしていきます。
僕たちは店舗を通してお客様に「圧倒的な非日常」を提供したいと考えています。そのために、店舗は喜びや驚きを伝えられるメディアとなり、お客様にわざわざ足を運んでいただく必要性を作らなければいけません。
そうした「圧倒的な非日常」を体験可能にするのが、「工房一体型」の店舗です。店舗は全面ガラス張りなっており、タルト製造の仕上げ作業からオーブンで焼き上がった熱々のタルトがカウンターに並ぶまでの工程を見てもらった上で、購入してもらえるよう設計されています。
1Brand = 1Productに絞った商品へ対する自信、製造工程、焼きたての美味しさ、といった「自分たちが大事にしている価値観やこだわり」をオーブンから発せられる音や熱、商品から醸し出す香りや艶などを通して体感してもらいたくて「工房一体型」をとっています。
この店舗の作り方には、ブランドとしてのメッセージも込めています。一気通貫で製造工程をお見せすることで、「隠すものは何もない、自信を持ってお客様に商品をお届けしている」と感じてほしいと考えています。
実際の店舗のデザインをお見せしながら、どんな体験が届けられるかを見ていきましょう。まず、北千住駅にある「BAKE CHEESE TART EQUiA 北千住店」から。
店舗全体は、タルトが引き立つよう、フロントカウンター以外の部分を極力シンプルに仕上げました。カウンター下には、黄色・オレンジ・ピンクなど色のグラデーションを施し、境界をあいまいにすることで、「タルトのカウンターが浮遊している感じ」を表しています。
チーズタルトの食感の軽さや、手軽に手に取ってほしいという思いをカウンターデザインに落とし込んだカタチです。
続いて紹介したいのが、グランスタ丸の内にある「BAKE CHEESE TART グランスタ丸の内店」です。この店舗は、タルトを入れる「ボックス」をモチーフにデザイン。モノトーンの統一感ある店舗に、黄色いボックスがアクセントとなり、整った印象を与えるようにしました。
実は、この店舗の向かって右側、レジの後ろの棚に並べられているボックスは、ディスプレイ用途と提供用途の両方を兼ねています。注文を受けてからすぐに商品を詰められるよう、レジのすぐ後ろに配置しています。
空間で非日常を届けられたとしても、スタッフが働きにくくては本末転倒です。そのため、非日常でありながらスタッフが作業しやすい店舗デザインも心がけています。ちょっとした工夫で、スタッフのオペレーションの負担を軽減することができます。
ブランドは、企業や個人の志が必然的に滲み出てくるもの。決まっている日常のオペレーションのなかで、いかに自分たちの想いを伝え、共感してもらうかを考えなければなりません。ストアデザインを担当する人間としては、店舗で働くスタッフが働きやすいように空間を設計し、日々のオペレーションからもブランドとして大切にしたいことを伝えられるようにと試行錯誤をしています。
お客様のためにより良い体験を作り上げる上で、BAKEのデザイナーが実践しているのは外部デザイナーの起用です。外部のデザイナーと共創することで、自分たちだけでは考えつかないような発想を生み出すためです。
例えば、広島駅の駅ビルASSEにある「BAKE CHEESE TART ASSE広島店」は、外部デザイナーとの共創なくしては生まれませんでした。
向かって右側は、広島駅のコンコース。このコンコースを出ると、マツダスタジアムや宮島に向かうロータリーがあります。日々、無数の人がこの場所を通ります。
そのため、店舗の右側に商品を置いた方が、より多くのお客様の目に触れることができます。しかし、オペレーションを考えると、商品カウンターはレジの横に置かないと、商品を詰める際に時間がかかってしまいます。
オペレーションとお客様へのアプローチを両立するためにはどうすればいいか。この問題を、外部デザイナーと一緒に考えた結果、生まれたのがちょっと風変わりなカウンターのデザインです。
必要に応じてカウンターの角度をシーソーのように自由に変えることができる「シーソー型の商品カウンター」。こんなデザインはなかなか見たことがありませんよね。
お客様にしっかりと商品を見せたいという思いと、作業のしやすさへの配慮が組み合わさった極めて稀なデザイン。この共創によって、外部のデザイナーから刺激を受けることもできました。
こうした、色々な人のアイデアを取り入れる共創の意識が、BAKEそのものの価値を引き上げ、その先にあるお客様の体験をより良いものにしていくのだと思います。
ブランドが大切にしている価値をお客様に体験し、共感してもらう場は店舗だけではありません。最近BAKEではファンイベントを開催しており、イベントを通してお客様にブランドの目指すもの、商品開発のストーリー等を発信しています。
「商品を買っていただくことはゴールではなく、スタート」と考えています。個人が情報発信しやすい現代は、身近な人の熱量のある口コミがSNSなどを通じて購買に大きな影響を与えやすい。だからこそ、イベントを通してブランドへの理解を深め、その方の発信を通じて、新たにファンの輪を広げていくことが欠かせません。
ファンの輪を広げていくための取り組みとして、先日、ファンイベントとして商品販売前のフレーバーの試食会を開催しました。
この時にお出ししたのは、お客様からの「フレーバーのバリエーションをもっと増やして欲しい」という声をきっかけにつくられた、セイボリー系フレーバーの「ブラックペッパーチーズタルト」。
元々、このフレーバーは2018年11月に開催したBAKE CHEESE TARTのファンイベントで提供して好評だったことから、商品化につながったもの。コエドビールとコラボして「The BAKE BAR」と題した一夜限りのバーイベントを企画し、参加者を募集したところ、応募が殺到。当日も、「意外な組み合わせだったけど美味しい」や「いろんなアレンジを試したくなった」などという意見が寄せられ、ファンイベントは大盛り上がりでした。
何よりも、お客様と交流しながら商品に対するリアクションをいただけたのはうれしかったですね。この体験を通して、お客様にとってもBAKEのことをさらに理解していただくきっかけになったのではないかと感じています。
繰り返しになりますが、店舗は商品を売る場だけではなく、「体験」を届ける場。お客様がワクワクするような購買体験をデザインすることによって、お菓子を進化させる。この姿勢を大切に、BAKEのデザイナーたちは日々デザインと向き合っているのです。