子供の頃、10円、20円……と計算しながら、駄菓子屋さんでお気に入りのお菓子を買っていたことを思い出す。工房を満たす綿菓子のような甘いにおい。
ここは、飴工房。懐かしさで、きゅっと切なくなるほどの幸せなかおりで胸がいっぱいです。
この香りの正体は飴。切っても切っても同じ絵柄が出てくる「組み飴」が、職人技によって今まさにつくられていきます。
10年前にはじめたオーダーメイドの飴が大ヒットした「まいあめ工房」。現専務の中村慎吾さんが事業を引き継いでからはファッションブランドやInstagram公式のオーダーメイドの飴をつくるなど、飴のスタートアップ的な存在なのです。
今日は駄菓子の新たな一面を伝える「まいあめ工房」専務の中村さんと、広報の藤井さんにお話を伺います。
まいあめ工房さんの飴は、ほとんど手作業でつくられているんですね。とてもスピーディーで職人技に圧倒されました。
藤井:飴を溶かしてから固まるまでの40分間で完成させるには、熟練の技術が必要なんですよ。
職人のみなさん、とってもかっこよかったです。それに、トロトロに溶けた飴はずっと見ていたくなる、不思議な質感でした。
藤井:飴の動画をInstagramにアップしてから、海外からの反応も多くいただけました。 ブログで「小さな企業アカウントがInstagramで動画再生280万回を叩き出した理由」もたくさんの方に読んでいただけました。
すごい。今日はまいあめ工房のことや、特有の広報術についてお話を聞かせてください!
藤井・中村:よろしくお願いします!
アパレルや海外企業のオーダーメイド飴を作られていましたが、どのようなきっかけですか?
中村:2年前に事業を受け継いでからですね。僕はもともとアパレル業界にいたのですが、そういうバックグラウンドもあって、企画書をつくったり、発信したり、動いていました。 最近はオーダー通りにつくるだけでなく、プロモーションの企画段階から関わったり。飴の広告代理店のようになってきたと感じます。
飴の広告代理店、ですか
中村:飴って、「あめちゃん」というように擬人化される数少ない食べ物なんですよね。あめちゃんは擬人化されることで、会話のきっかけになるでしょ?
組み飴なら、言葉をいれて気持ちを伝えることもできるし、コミュニケーションツールとしてドライブをかける販促にぴったりなんです。
飴は、メディアなんですよ。
食べれる広告枠、食べれるメディアですね。
中村:僕らは飴のスタートアップとして新しいことに取り組んで、業界全体が盛り上がってくれたら、という想いがあります。
それに、「INTERESTING」という意味の面白い存在になることで、一緒に何かつくってみたい!と思ってくださる方が増えてきたと実感しています。
まいあめ工房は元々オリジナルデザインの飴をつくられていたのですか?
中村:株式会社ナカムラは駄菓子の卸がメインだったのですが、10年前に父が組み飴でのオーダーメイドサービスはじめました。それが「まいあめ工房」です。
中村:組み飴の文化自体が縮小しているうえに、「駄菓子は安くてなんぼ」と思われがちです。駄菓子と言えど、そのお菓子に必要な技術や文化にはすごく価値があるんです。
先程も職人さんを見て、圧倒されました。
中村:ありがとうございます。父がオーダーメイドの飴づくりを始めて、職人さんとお仕事をするようになって、飴の伝統や文化に興味を持ちました。
僕たちはどんな価値をつけていくか、職人さんたちはどうやって技術をつけていくか。つくること、売ることの専門性をわけて、文化を残していきたいと考えています。
藤井:私たちに飴は作れませんが、技術や伝統を世の中に伝えることなら得意分野です。
藤井:お客様に伝えるのはもちろん、職人さんに伝えることも大切です。お客様がイベントで使ってくださったときの写真で送ってもらったり、職人さんもモチベーションがあがるし、このストーリーを知ってもらうことで、お客様も喜んでくださるんですよ。
つくる・伝えるの専門が協業して「三方良し」を生み出せたんだと思います。
広報は、職人さんとお客様をつなぐ存在でもあるんですね。
飴業界は、どんな状況でしょうか?
中村:全盛期は全国で40社以上あった組み飴屋も、今では10社ほどに減りました。
そんなに減っているんですね。
藤井:少子化の影響を受け、駄菓子屋自体が少なくなり、必然的に卸し先が減って、経営が厳しくなっているところが多いんです。 中村:だからこそ、今後まいあめ工房での職人を採用・育成していくことが大切になってくると考えています。ロストテクノロジーは避けなくてはいけない。
お菓子も、工芸品も、建築も、モノが保管されるだけでなく、技術によって残されることが大切なんです。
後継者がいなくて、途絶えてしまう文化がありますね。
中村:そうです。一人前になるまでに長い時間がかかる職業ですが、ありがたいことに、20代の子たちがこの世界に興味を持ってくれて。
今まで家族経営だったまいあめ工房が、組織として歩みはじめた、大きな一歩を担ってくれています。
他の飴工房はどうでしょうか?
藤井:名古屋には飴工房がいくつかあるのですが、みなさんで協力しあって職人を育てている印象が強いです。交換留学のように若手を別の工房で教えたり、お互いの技術を共有しあう機会も多いんですよ。
オープンにすることで、名古屋の飴業界が盛り上がっていくんですね。ちなみに、まいあめ工房さんは自社工場を持たないのですか?
藤井:うちは工場を持っていないので、見学していただいたような外部の工房にお願いしているんです。オーダーメイドの飴は複雑なデザインだったり、より技術を求められます。だから、通常よりも高い価格で仕入れさせてもらっています。 組み飴は技術がそのまま価値になるので、きちんと職人さんに還元していきたいんです。 職人は儲からないというイメージがあるせいか、技を受け継ぎたいという方もなかなかおらず、イメージ改革も必要です。
それは、寂しいですよね。
藤井:そうなんです。素晴らしい技術があるのに。職人は儲からない仕事ではないこと、そして、この技を受け継ぐことでオンリーワンの存在になれる、ということを世の中に発信していきたいです。 中村:夏場は暑いし、きつい仕事です。でも、新しい血を入れていかないと、文化として成り立たない。若手職人たちにはかっこ良くなってほしいですね!
藤井さんは、もともと広報のお仕事をされていたのですか?
藤井:いえ、前職はジュエリーの会社で、展示会や営業企画のお仕事をしていました。そのとき培った、文章を書くことや、魅せることが、今に活きていると実感しています。 中村とは大学の同級生だったのですが、出会った当初は和菓子屋さんの息子だと思っていて。結婚して、こちらで仕事させてもらうことになって初めて「あれ?!駄菓子なの?」って。
ご夫婦だったんですね。
藤井:そうです!で、いつか一緒に働くなら、早いうちからこの世界に携わらせていただいて、自分にできることからやっていこう、と。伝統的なものに携われるのも嬉しかったし、性格に合っていたんですよね。
藤井:中村も私も、アパレル系の会社からやってきて、最初は右も左もわからず悶々としていたんです。とにかくできることやろう!という勢いで、Instagramやブログ発信を精力的にはじめて。 中村:BEAMSさんや地元新聞社さんに企画書を送ったり。興味を持ってくれた方には、期待してくれた分だけ答える、この積み重ねです。 藤井:最近は、動くよりもちゃんと伝えていくことにシフトしてきたよね。まいあめ工房のことを理解して、何がしたいのか、どんな想いを届けたいのかを、しっかり伝えていく。
今までの積み重ねがあって、今の流れや文化にフィットした伝え方だなぁと感じました。古いものを切り離すんじゃなくて。
藤井:はい。私が大切にしてるのは、変わらないために変わっていくこと。長く続く伝統も技術も、その時代の時流に沿って変わってきた。だから廃れることなく今まで続いてきていると思うんですよね。
変わらない部分をしっかり軸として持ちながらも、時代に合わせて変幻自在に動ける部分を持つことが重要なのかなと考えています。
例えばその工芸品や作品、建築で、すごい技術があるのにそれを見て何かがわかる人がいないとどうなるか。
価値を決めるのって結局人ですもんね。
藤井:そうです。正しく伝わらなかったがために、価値が無くなってしまうのは本当に怖いことです。だから作り手はもちろん、伝え手もいないといけない。 伝え手がいないという理由で、価値ある伝統や技術が廃れてしまうのは、絶対に止めたいんです。
まいあめ工房さんだと、変わってきた部分に「伝える、発信する」があるんですね。
藤井:はい。これからも変わらない部分は「この伝統を残していきたい」ということ。変わってきた、変わっていく部分はきっと「伝え方や、見せ方」。その時々で一番最適な届け方で、これからもこの伝統を伝えていきたいと思っています。
駄菓子って10円、20円の安いお菓子ですが、伝え手がどれだけ技術の詰まったものかを伝えていくことで、それ以上に価値があると思ってもらえたらな、と。
藤井:飴にはまだまだ可能性があります。私たちの発想と、職人が蓄積してきた技術を組み合わせて、盛り上げていきたいですね。
BAKEは1ブランド1カテゴリーの専門店業態なので、改めて親近感がわきました。特に飴の価値の深掘りとか。1カテゴリーの商品をどう伝えていこうか、いつも悩んでいます。
藤井:わたしたちも飴しかないから、諦めずに向き合うと見えてくるんですよね。BAKEさんは美味しさで伝わっているイメージがありました。
ありがとうございます。でも、美味しい以上の価値を届けるのも、必要になってきたのかなぁと感じていて。
藤井:わかります。結果も大事ですけど、プロセスもすごく大事。なんなら、結果よりもプロセスのほうが大事なこともありますよね。
正しいかどうかは分からないけど、きっと「お菓子にとって、お客様にとって素敵だよね」と考え抜いて打つ一手には、意味あるがあると思いたい。
藤井:うんうん。
今回、RINGOオリジナル飴をつくっていただき、年始にRINGO全店舗で「お正月セット」として販売することになりました。これも、年始に何かワクワクした気持ちを届けられたら、という企画だったんです。
中村:お菓子屋さん同士のコラボレーション、楽しみですね。
はい!たくさんのこだわりの詰まった飴で、伝え手の一端を担えたら嬉しいです。今日は工房見学から取材まで、貴重な体験をありがとうございました。
藤井・中村:こちらこそ、ありがとうございます。お菓子業界のお話ができて楽しかったです!
【お話を伺った人】 まいあめ工房 中村慎吾さん・藤井佐枝子さん まいあめ工房ブログ「オリジナル飴デザイン日誌」でもBAKEとのコラボレーションについて記事が公開されています。あわせてご覧ください。 ▶憧れを持って仕事をするということ
今回はまいあめ工房さんにRINGOオリジナルデザインの組み飴をつくっていただきました。「お正月セット」として、RINGO国内10店舗の初売りから登場します!
【詳細】 ・商品名:RINGOお正月セット ・内容:焼きたてカスタードアップルパイ4個+オリジナル飴+オリジナルおみくじ ・価格:1600円(税込み) ・期間: 2019年1月1日から発売する店舗 池袋店・ウィング川崎店、立川駅店・大宮駅店・アミュプラザおおいた店 2019年1月2日から発売する店舗 東京ミッドタウン日比谷店・東武船橋店・ルクア大阪店・岡山店・天神地下街店 ※店舗により個数制限を設けさせていただいております ※各店なくなり次第終了となります
・まいあめ広報ブログ:憧れを持って仕事をするということ