お菓子と科学をテーマにした、BAKEグループ(以下、BAKE)のオウンドメディア「OPENLAB Review」がローンチされたのは、去年1月のこと。このメディアは、これまで職人の技術や感性に依存して作られることが多かったお菓子の世界に、科学やテクノロジーの知見を導入していくために作られました。ローンチから1年、そんなBAKEの姿勢に少しずつ共感してくださる方が増えてきて、大変ありがたい限りです。
2018年も、お菓子や食は進化を遂げていくと思われますが、今年はどんなふうに進化していくのでしょうか。専門家が発表した2018年の食トレンド予測や、OPENLAB Reviewで公開してきた記事を元に、食の未来を考えてみましょう!
昨年末、イギリスのグローバル市場調査会社Mintelが、2018年の食トレンド予想レポート(http://www.mintel.com/global-food-and-drink-trends/)を発表しました。このレポートによれば、2018年は、「信用」「セルフケア」「テクスチャー」「パーソナライズ」「環境に優しい代替食」などが食の進化の鍵となっていくとされています。
SNS映えする見た目の可愛いスイーツや、これまでになかった新感覚のスイーツなど、見た目や味にこだわった食べ物が次々と登場していますね。しかし、どんな奇抜な食べ物を作るにしても、安全で、安心して口にできる品質であることが大前提です。
最近では、食品の偽装や異物混入、劣悪な原材料の使用など、食の安全を揺るがすニュースも見かけるようになりました。こうした中、消費者はより安全を求めるような傾向にあるようです。自然由来や無添加の食品が人気を集めたり、生産者の情報をバーコードを読み取って表示するサービスも増えています。
生産や流通の状況をトラッキングするために、今話題の「ブロックチェーン」技術の活用にも注目が集まっています。
ブロックチェーンでは、どこで何が、誰によって作られ、どこを経由し、どのお店に届いたかなどのすべての過程のデータを残すことができることから、クリアな情報を消費者に提供できるとして期待されています。
詳しくは、ジビエ肉の安全性を守るためのブロックチェーン活用事例をご紹介した以下の記事をご覧ください。
▷仮想通貨の「ブロックチェーン」技術は、食の数値化を加速する。
また、食の安全への関心が高まるにつれて、”安全の基準”も見直され始めています。本当は安全に口にできるのに、「なんとなく気持ち悪い」とか「形が悪いから売れない」といった理由で捨てられる運命にある食品がたくさんあります。こうした食品を再加工し、消費者に受け入れられやすい形で広めていくなかで、新たな食品が生まれていくるかもしれませんね。関連記事ではこうした食品におけるブランディングの重要性についての調査をご紹介しています。
食べ物のおいしさは、味や香りによるところが大きいです。しかし、近年では、五感への刺激が組み合わさることで錯覚のような現象を引き起こす「多感覚知覚」に注目が集まっています。
たとえば、プレーン味のクッキーを、VRで見た目をチョコクッキーにして、チョコレートの香りを嗅ぎながら食べると、7割ほどの人がチョコクッキーの味になると感じることが分かっています。
▷おいしさはイリュージョン?見た目と味が違う時、脳はどちらを信じるのか。
こうした流れの中で、サクサクやふわふわといった食感(テクスチャー)を面白くすることで、これまでになかった味を作ろうとする例が増えてきています。これまでにある例でも、モチモチした食感を楽しめるタピオカミルクティや、シュワシュワした爽快感を目的とした強烈な炭酸飲料などは、食感や口当たりを楽しむために飲む人が多いのではないでしょうか。
今後は、こちらの記事で紹介している分子調理の技術も使われていくことでしょう。こうした食感への工夫はますます強まっていくと思われます。上の写真は、「ゲル化」という技法を使って、ジュースを球体にしている様子です。プチッとした食感が楽しめます。
また、リッツクラッカーのCMのように、「サクッ」などの食感に由来する音自体が、商品のサウンドロゴとして使われる事例があります。「サクサク」などの食感を表現するオノマトペを使った広告も多く見られるようになりました。オノマトペは、より非言語的な言葉として脳で処理されることから、人の本能的な部分に訴えかけることができる言葉として注目が集まっています。
忙しい毎日を送り続けるためには、心身の健康が欠かせません。最近では、ウェアラブルデバイスやアプリを使って気軽に行える健康管理を行う人が増えてきています。食べ物においても、単に味を楽しむだけでなく、食べることで健康につながりそうな機能を持つ食べ物が求められるような時代になりました。
お菓子のうな嗜好品でさえも、糖分や脂肪分が少なく、ローカロリーで高タンパクな製品が好まれるようになってきています。また、ハーブやスパイスなどの植物に含まれる成分(フィトケミカル)は、ストレス解消が期待できるとして、食べ物や飲み物に配合される事例が増えています。
ほかにも、糖分のとりすぎを抑えるために、お砂糖代わりに「キノコの粉末」を使う例もあります。こちらは”甘味を加える”のではなく、”苦味を減らす”ことで甘さを相対的に増やすという、新しい調味料です。
こちらは、世界で唯一の天然由来成分の苦味ブロッカーとして、添加物よりも自然な食材を志向する人が増えるなか注目を集めはじめています。詳細はこちら。
ストレスがたまると、腸内細菌が太っている人の腸内細菌と同じになるという研究結果があるなど、ストレスは健康を目指す上での大敵です。とはいえ、ストレス要因そのものを取り除くのは難しいので、小さな気分転換をいかに取り入れられるかが重要になってくるでしょう。お菓子を食べることは、気分転換につながります。今後は、日常的に食べることでセルフケアができるようなお菓子が増えていくかもしれません。
食べ物そのものだけでなく、食べ物をとりまく環境にも変化が訪れています。とくに、スーパーやコンビニで食品を”選ぶ”行為が、この先大きく変わっていくことでしょう。すでに、多くの通販サイトでは、販売履歴や閲覧履歴から、私たちが好きそうな類似商品を提案してくれます。このような、個人ごとに合わせた提案を行う「パーソナライズ」が、食品業界にも訪れようとしているのです。
個人の行動パターンや日頃よく買う商品をデータとして収集することで、一人一人に合った買い物リストや栄養指導を提案することができます。自動的に最適な食品をアプリやAIが選んでくれることは、時間や労力を節約したい現代人の需要にも合っているでしょう。
たとえば、「Kuvée」というプロダクトは、その人が飲んだワインに類似したおすすめワインを提案してくれるようです。ワインボトルのガジェットで、Wi-Fiが接続でき、まさに”スマートワインボトル”というべき存在です。
クラウドファンディングのような実験的な場所で、こうした食品のパーソナライズ事例が増えていくと思われます。海外クラウドファンディング発の最新フードテックアイテムたちはこちらの記事でもご紹介しています。
個人についてのデータは、消費者だけでなく、生産者や販売者にとっても、生産量や仕入れ量を正しく見積もることにつながります。無駄な食品廃棄の削減も狙えそうですね。これまで実店舗と通販サイトは競合関係にありましたが、今後は両者がデータを共有しながら一体となって、私たちの食品選びを変えていくと思われます。
食品製造の現場に、バイオテクノロジーなどの科学技術を取り入れる試みが増えています。たとえば、細胞培養技術で筋肉や脂肪の細胞を培養してお肉を作る、酵母菌を培養して牛乳を作るといった事例があります。以下の記事では、日本の団体「Shojinmeat Project」による純肉作りの取り組みをご紹介しています。
▷肉を自在にデザインできる次世代の「純肉」と、「細胞農業」が描く人類の未来
このような食材は、お肉の代わり、牛乳の代わりなどの意味を込めて「代替食」と呼ばれています。みなさんは、科学技術で作られた代替食を食べてみたいと思いますか?
科学技術を用いた食品の多くは、今人気の「自然由来」の食品とは対極に位置する存在であり、人々に受け入れられるまでには時間がかかるかもしれません。
しかし、科学技術を使って新たな食品を製造することは、環境へのダメージを減らすメリットがある場合があります。たとえば、植物で作った肉を使ったハンバーガーの生産は、通常の肉を使う場合より、土地を95%、水分を74%、温室効果ガスの排出を87%削減することができるといいます。科学技術で作られるこうした食品は、「環境に優しい代替食」として注目されていくと考えられます。
ほかにも、農業や酪農においては、科学的なデータを元に最適な生育環境を作ることで、家畜や労働者の負担を減らし、よりよい原材料の生産を目指す動きが強まっています。人工的なものに対する心理的抵抗感の壁は、客観的な数値によって時間をかけて少しずつ取り払われていくのかもしれません。
OPENLAB Reviewでは昨年末に、「30年後のおやつを考える」というテーマで、初のオフラインイベントを行いました。
▷未来の食を考えるワークショップ「Future Gastronomy Workshop」イベントレポート
2018年も、オンライン・オフライン問わず、食の未来に興味のある人たちと繋がりながら、さまざまなテーマを議論していければと思います。本年度もBAKEのOPENLABをよろしくお願いいたします!
文:大嶋絵理奈(Facebook) 編集:名和実咲(@miiko_nnn)