「せっかく育てても、最近の大学生はすぐ辞めちゃう…」 そんな声をよく聞くことがあります。せっかく教育したのになんだよ! というかなしみの声。かくいう私も、大学時代はあれやこれやと色んなアルバイトに手を出して、都度ご迷惑をかけてしまったものですが…。 さて、本日のテーマは「部下のマネジメント」。職種は違えど、マネージャーの方、これから部下を持つ方は、ぜひ参考にしていただきたいようなお話を伺いました。 取材をしたのは、北海道の洋菓子「きのとや」。地元の方たちが口を揃えて「迷ったらきのとや」と言うほどに、地域に愛されている洋菓子屋さんです。美味しいお菓子はもちろん、質の高い接客が評判でもありますが、その看板を背負っているのは多くの大学生アルバイトたち。 普通の大学生が、どうしてポテンシャルを最大限発揮できるのでしょうか。 「きのとや」でマネージャーを務める青木みのりさんに、その驚くべき教育方針を聞きました。
ー「きのとや」の販売員は、社員もアルバイトも全員、青木さんの指導を受けてから現場に出ていると伺いました。そこでは一体、どのようなことを教えているのですか? 青木:最初の1日は座学、次の1日はマンツーマンでの店舗研修ですね。 ー丸1日、マンツーマンで教えられるのですか。 青木:ええ。何もわからない状態で店舗に出てしまうと「何をしたらいいかわからずに辛くなって辞めてしまう」という状況が発生してしまいます。せっかく興味を持って働きに来てくれたのに、残念ですよね。ですからきのとやでは、私と研修をして「もしやることがなかったらこうしてね」と一人ひとりにレクチャーをしています。そうすると、何かしら出来ることが見えてきて、自信にも繋がるんですよね。 ー具体的にはどのようなことを教えていらっしゃるんですか? 青木:まず、きのとやには販売員のマニュアルがないんですよ。 もちろんレジの操作や店舗の情報など、基本的なことは座学で教えます。でも、接客の方法は文字や言葉の情報だけで伝えても、何も伝わりません。 研修のときに伝えているのは「絶対に、お客様の目を見て笑ってね」「言葉づかいは多少間違ってもいいから、まずは一生懸命に笑顔でお客様のお話を聞いてね」ということ。「あなたができる一番良いことをお客様にしてくださいね」という話をしています。新人さんが現場で迷ってしまうのは当たり前のこと。でもそんなときに自分の頭で「一番良いこと」を考えて、実行してもらうんです。
ー自分の頭で、というのがポイントなんですね。 青木:そうなんです。「こう接客しなさい」という型を伝えていても、教えた相手はその全てを理解することは難しいんです。 もし何かミスをしてしまった時。「今のはダメだから今後はこうしてください」と指摘するだけでは、本当の意味では理解してもらえません。でもそれは、部下の能力が低いんじゃなくて、教える側に問題があるんです。 「ダメだから」ではなく「それを自分が受け取ると、どう感じる?」と聞くと、みんな自分の頭で一度想像してくれるんですよ。そして「自分は、お客様にとって良くない接客をしてしまった」と理解すると、似たような失敗を繰り返さなくなっていきます。さらにはその子に後輩が出来たとき「こういう決まりだから」と押し付けるのではなく、しっかりと理由まで導いてあげられる。 ー「教える」のではなくて「導いていく」というスタンスなのですね。 青木:やっぱり本人が自分の頭で「良い!」って思ったことをやらないと、100%の力は出せないんですよね。人の真似をしてみても、その子の100%にはなれません。
—そこまで接客スキルが身につくと、ホテルだったり、レストランだったり、転職を検討される方も出てくるのでしょうか? 青木:いえ、実はきのとやって離職率がすごく低いんですよ。お誕生日にお休みがとれる「バースデー休暇」があったり、会社全体としての福利厚生みたいなものもあるからとは思うのですが…それ以上に、スタッフ同士がすごく仲が良いんですよね。 —偏ったイメージで恐縮ですが、女性が多い職場は、なかなかギスギスしているものが多いと… 青木:どちらかというと、少年の集まりみたいなんですよ(笑)。みんな言いたいことを率直に言うし、もちろん店舗間の良いライバル関係みたいなものもあります。そして何より、困った時の協力・連携体制は頼もしいものです! 産休で現場を離れる社員は多いですが、また戻って来てくれる人も多いんですよ。大学生のアルバイトの子たちも、大学を卒業して看護師になったり、銀行員になる子もいますが、毎年一定数「きのとやに入社したいです!」と志望してくれる子がいます。 —それは本当に良い職場なんですね。 青木:求めるレベルも高いですから、失敗したり、悔しかったりして裏で涙を流すことも多いんですけどね。でも毎年3月になると多くのアルバイトの子たちが「きのとやで働いてよかった!」と言って、良い笑顔で卒業していってくれます。 —すばらしい人材の輩出を…。「北海道にきのとやあり」という感じですね。 青木:そういう存在になれると、私も嬉しいですね。
—ただ、全販売員の研修を任されている青木さんは、相当お忙しい上に、プレッシャーもハンパないのでは? 青木:いや、私もちゃんと休んでますよ(笑)。管理職が長時間労働をしていると、みんなそこを目指さなくなってしまう。「じゃ、帰りまーす!」という私の姿を見て「あ、管理職でも帰れるんだ」とポジティブに捉えてくれる子はいるとおもいます。 プレッシャーはもちろん大きいですね(笑)。販売員のミスは全て私の責任になってしまいます。上からも下からも信頼されるためには、自分が一番やらなきゃいけない。 —おつらいですか…? 青木:いや、それも含めて楽しんいですよ。教えた部下がどんどん育って店長になっていったり、アルバイトの子に勉強させられたり。自分より優秀な人が育っていくと感動してしまいます。そもそも私、新卒で面接を受けたとき、採用基準スレスレで落ちちゃいそうだったんです(笑)。 —えっ! 青木:大学は体育学部のエアロビ専攻で…身体は動かしてきたけれど、あまり勉強してこなかったんですよね。だから一般教養が苦手で。でも、社長が「こいつは通そう」と拾ってくださったんです。でも当時はすごい人見知りで、飲み会も社交場も苦手。人の目を見ることも出来なかったので、大学時代は「あなたは接客の仕事しないほうがいいよ」と言われるほどでした。 —今はすごく流暢にお話しをされています…。 青木:新人時代の私を見た社長が「フロアの中では女優だと思ってやりなさい」と言ってくださったんです。その言葉で吹っ切れましたね。「私はここでは女優なんだ」。そう意識して、誰よりも背筋を伸ばして働いているうちに、どんどん明るくなれたんですよ。今ではこんなにお喋りになりました(笑)。 私はきのとやに救ってもらえたんです。そんな恩を、自分の出来る限り返していきたいんです。後輩たちのポテンシャルを引き出してあげることが、今の私に出来る恩返しであり、一番の目標です。
– – 青木さんが素敵な方すぎて取材中ドキドキしてしまい「すごいです」「まぶしいです」「弟子入りしたいです」と口にしてしまう私でした。そんな彼女も、最初は「何も出来ない新入社員だったんです」という衝撃の事実。 その人の持つポテンシャルを100%引き出せるよう、マニュアルを使わずに導いていくのが「きのとや」流のマネジメント方法。これは接客業だけではなく、どんな職種にも共通するお話だと感じました。 「きのとや」から受け継いだ「焼きたてチーズタルトBAKE」や「クロッカンシューザクザク」を販売する私たちBAKEも、お菓子だけではなく、その志をしっかりと引き継いでいきたいですね…と取材に同行してもらったBAKE店舗マネージャーの田村さんと喋りながら、帰路につきました。 青木さん、素敵なお話を本当にありがとうございました! Text by 塩谷 舞( @ciotan )編集協力 樽見祐佳
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— 株式会社BAKE (@bake_jp) 2016年6月2日