主催のオイシックスドット大地さんからお声がかかり、BAKE Inc.(以下BAKE)のデザイナーも登壇させてもらうことに。本日のTHE BAKE MAGAZINEでは、当日のイベントレポートをお伝えします。
登壇した3社には、3つの共通点があります。
ひとつは「食」に関わる企業であること。 ひとつは「デザイン」にこだわっていること。 最後のひとつは、インハウスデザイナーが活躍していること。
デザインを通してブランドをつくるとはどういうことか、「おいしい」が伝わるデザインとは何か、インハウスデザイナーとはどのような存在なのか……
各社の「インハウスデザイナー」が、それぞれのプロジェクトや制作物について、その裏側を語ります。
オイシックスドット大地(以下Oisix)では、これからデザインの力でブランドを育てていくフェーズに入り、クリエイティブの新しい体制やそのメリットを紹介してくださいました。
「クリエイティブチームが発足したのですが、デザインファームと呼んでいます。デザインファームのメンバーはパートさんも含めると、約40名ほど。事業部ごとにデザイナーがついており、ECや海外などで分担しています。デザイナーをひとつの場所に固めず、事業部ごとにつけることで、ノウハウを共有できます。何より、所属する事業部の目標に対して、深くコミットできる体制になっています」
印象的だったのは、あまり統一感にこだわりすぎない、という話。実店舗を持つBAKEにはない観点でした。
「私たちは、何より素材が最も引き立つことを心がけています。ブランドイメージはこうだから、アングルは、照明は….といった均一の世界観や、ルールから考えるのではなく、例えば、じゃがいもは?鍋料理なら?どんな時間に食べる…?こんな風に、私達のクリエイティブは素材からはじまります。
それを等身大のシズルと考えていて、このシズル表現においては、食のデザインを代表する存在になりたいと思っています」
「お客さまが”自分事と思える素敵さ”や”食卓を感じられること”を大切にしています。これって、ロジカルなエモーショナルなんじゃないかと。たまには見たことのない表現をつくりたい、と思うこともあるんですけどね(笑)。
そして、作る人(生産者)と食べる人を知ること。会社としての取り組みで、年に数回産地を訪問してしっかり農業します。朝4時に起きてレタスを収穫したり、結構本格的ですよ」
「食べる人、つまりお客さまを知る取り組みとして、インタビューやお宅訪問をすることも。”この方たちにデザインを届けるんだ!”と身が引き締まる思いがしますね」
「Oisixでは、企画もデザイナーも同じ視点で、お客さまの満足にコミットし続ける文化が根付いています。もちろん売上という数字的な結果も追っています。今ある課題に対して、仮説をたてて、対策を練るとき、デザインに関することでなくても、一緒に考えるんです。解決策がデザインでない場合だってあります」
「ブランドは、こうしたPDCAサイクルをまわし続けて、お客さまの満足を積み重ねた先にあるものではないでしょうか」
オイシックスドット大地について
安全で美味しい野菜や果物、献立キットがECサイトで買える「Oisix.com(https://www.oisix.com/)」や「大地宅配(https://takuhai.daichi-m.co.jp/ )」を運営。国内外から食材を発掘、厳選し、いつでも安心安全でおいしい食材を、お客さまに提供。中間の卸業者が存在せず、生産者との繋がりが深く、独自のビジネスモデルが注目されている。
「私たちはブランドのことを人に例えたりするのですが、Soup Stock Tokyoでは”秋野つゆ”さんという女性をブランド自身にたとえます」
【秋野つゆさん(37)プロフィール一部抜粋】 ・おっとりしているがシッカリしており、自立している ・人のことはあまり気にせず、個性的 ・化粧気はないのにきれい ・オシャレに無頓着なのに、センスがよい ・フォアグラよりレバ焼きを好む….などなど
「こうした共通言語の発想は、Soup Stock Tokyoの母体となるスマイルズにあって、それは“5感”と呼ばれる行動指針です」
”「低投資・高感度」「誠実」「作品性」「主体性」「賞賛」の5つ。”
「例えば『その企画って、作品性あるかな?』とか『すごく主体性があるし、いいね』とか。この共通語は、様々な事業を持つスマイルズをかたちづくっています」
「ここからは、デザインと企画の話を。2年前から、Soup Stock Tokyoには『スープの無い日』があります。Curry Stock Tokyoという企画をご存知でしょうか。昨年は2日間限定で、スープのない日として、スープの提供を止めてカレーメニューのみが並びました」
「はじまりはSoup Stock Tokyoのカレーを食べて、知っていただきたい、という企画担当の思いでした。この企画があえて取り上げたのは、デザインにおけるタブーがあったからです。Curry Stock Tokyoの2日間、ロゴや店舗に黄色い立ち入り禁止テープを思わせるテープを施しました。ここでデザイナーとしての葛藤と、トライがありました」
「Soup Stock Tokyoは1999年創業ですが、当時の飲食店でロゴがモノクロを使うのは珍しかった。デザインの原則として、スープに彩りがあるから、他はシンプルに、店舗デザインも木材やガラス、ステンレスなど素材そのものの色を生かしています」
「ですから、ロゴに黄色テープはご法度中のご法度。さらに、60店舗すべてにこのテープの装飾をするなど、かなりの労力をかけています。この企画をやりきれたのは、ルールを破ってでもSoup Stock Tokyoの本質に近づく、メッセージや価値を届けられる、という確信があったから」
「この2日間はルールにとらわれない、一見非効率と思われることでも、Soup Stock Tokyoらしさを届ける企画になったと思います」
「Soup Stock Tokyoのスープは、無添加で手間ひまをかけています。けれど『おいしいね』と言ってらうだけに飽き足らない。私たちは商品の価値を「作品」と捉えていて、だから売上を企画のゴールにしていません。そして)そんな企画は絶対に通らない!(笑)」
「わざわざ今、飲食店が減っていく世の中で、お店を持つことを考えなくてはいけません。Soup Stock Tokyoのデザイナーの仕事はSoup Stock Tokyoの未来のために、ブランドを伝える手段を考えることです。私たちは店舗からの要望に対して、一緒に考えて、応えていく。そのために必要なのは、デザインやお客さまの目に触れるものとは限りません」
普通なら「デザイナーの仕事じゃない」と言われるようなことでも、ブランドに関わることは全部やるのだそう。「これが一番おもしろいことかもしれません」と笑顔を交えて語られていたのが印象的でした。
株式会社スープストックトーキョーについて
2016年、スマイルズから株式会社スープストックトーキョーに分社化。Soup Stock Tokyo は首都圏を中心に展開する「食べるスープの専門店」。 化学調味料等に頼らず、手間隙をかけた素材の特長を活かした調理方法を採用し、 従来のファーストフードとは一線を画した料理を提供する。
「人がどうしてもこれが食べたい!という衝動に駆られる表現ってなんだろう?こういう表現を深掘りしています。まだまだ可能性があるなと思ってて、試行錯誤する楽しさがありますね」
「焼きたてチーズタルトを、素材の固さや堅牢さとの対比の中で引き立てました。ガラスの下にモルタルを入れたのですが、これらは店舗を構成するマテリアルの一部です」
「大きく2つあって、BAKEのクリエティブにおいては、五感を刺激するデザインを大切にしています。私個人はその上で、心に棲みつくデザインを心にとめています。
五感を刺激するデザインというのは、商品を買う時から、持ち歩いて、誰かと一緒に渡す時、箱をあける瞬間…….ブランドを体験するすべての瞬間に、ワクワクさせたい、という思いをこめています」
「心に棲みつくデザインについては、心のなかに長く残るような、人の記憶や原風景にあるようなデザインを目指していて。建築家の安藤忠雄さんの言葉を借りているのですが、すごく心に響いて、大事にしている考え方ですね」
「今年の4月にオープンしたプレスバターサンドを例に話します。
どうしたら心に残るデザインができるのか?と考えた時に、どの商品もそうですが、伝えたいことがたくさんありすぎるんです。だから、最初に要素を削ぎ落として、極限までシンプルにする。ある意味、捨てる勇気を持つ」
「シンプルに伝えたい要素、削ぎ落としたメッセージというのは、店舗やウェブデザインに展開するときの礎になります。だからぜったいに揺らがないくらい、しっかりしたものにする」
「ここで、人の心に棲みつくデザインという視点で、大事な要素になるのがカラーリングです。溶けた鉄のビビットなオレンジをキーカラーに配し、機能的なグレーをボディに使いました。この対比は静的なもの(鉄のグレー)/動的なもの(溶けた溶鉄)という構図を生み、さらにかたい生地/とろっとしたバタークリーム・バターキャラメルの対比とリンクします」
「BAKEには様々なバックグラウンドをもった人がいるので、たくさんのヒントや刺激をもらえます。デザインだけやってたらぜったいに知り得なかったことがたくさんあるので、私にとって、この環境はすごく魅力的なんじゃないかと思っています」
株式会社BAKEについて
株式会社BAKEは「お菓子を、進化させる」というステートメントのもと、原材料や製造手法などお菓子作りの本質を掘り下げおいしさを追求することに加え、今の時代に合った商品、業態、デザインや販売手法を取り入れ「お菓子の可能性」を広げていくことを目指しています。現在では8つのブランドを展開しています。
現在3社ではデザイナーを募集しています!
デザイナー採用の専用ページでは、プロジェクトやクリエティブディレクターである水野学さんのインタビューも紹介されています。
https://recruit.oisixdotdaichi.co.jp/job/designer/
http://www.soup-stock-tokyo.com/recruit/regular/
お菓子を進化させるグラフィックデザイナーの募集開始!(アルバイトのアシスタントも同時募集中です) https://www.wantedly.com/projects/114763
※各社、掲載の求人は予告なく終了することがございます。
交流会ではOisixさんの野菜に、Soup Stock Tokyoの3種のスープが振る舞われました。私たちは、デザートにBAKE CHEESE TARTとPRESS BUTTER SANDを持っていきました。
今回はメーカーや制作会社で働くデザイナーさんが参加してくださり、登壇したインハウスデザイナーと一緒にテーブルを囲みながら、いろいろな意見交換を行いました。
食✕デザインの領域で、まだまだできることがあって、そこへのチャンレンジに各社、それぞれの”らしさ”をスパイスに、この先世に生み出されるものに、わくわくとした気持ちで溢れていたように思います。
「デザイン」にまつわるお話は、THE BAKE MAGAZINEでよく読まれているジャンルのひとつ。おいしそうなデザインやシズルの表現については、あらゆる方法やアプローチがあると思います。
普段BAKEのパッケージや店舗デザインについて取り上げることが多いのですが、今回他社のインハウスデザイナーのみなさんのお話を聞くことができて、私たちにとっても大きな刺激となりました。こうした場を提供してくださった、オイシックスドット大地さん、Soup Stock Tokyoさんありがとうございました!
オイシックスドット大地デザイナー:福嶋智美(ふくしまともみ)さん
プロフィール 1981年熊本県生まれ。大阪市立デザイン教育研究所卒業後、 制作会社にて外資一般消費財メーカーのキャンペーン企画、デザインなどに従事。 2009年オイシックス株式会社に入社。家族の都合で約2年間台湾で暮らし、 2012年に再就職。現在はオリジナル商品のパッケージデザインを担当。
Soup Stock Tokyoデザイナー:上村貴之(うえむらたかし)さん
プロフィール 1981年、神奈川県生まれ。大学卒業後、デザイン業務の実績を積み、 2007年、株式会社スマイルズに入社。Soup Stock Tokyoのグラフィック、ブランディングに関わる業務に携わる。 2017年、株式会社スープストックトーキョー ブランディング本部立ち上げよりブランドコミュニケーション部マネージャーを兼務。
BAKE Incデザイナー.:柿崎弓子(かきざきゆみこ)
プロフィール 1980年東京生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業後、 デザイン事務所にてパッケージデザインを中心にブランディング、VI・CI計画に従事。 2016年BAKE Inc.入社。PRESS BUTTER SANDの立ち上げにアートディレクター/デザイナーとして携わる。
BAKEのデザインに関する記事一覧です。デザインやBAKEのお仕事にご興味のある方は読んでもらえたら嬉しいです!
・プレスバターサンド、いよいよオープン!BAKE Inc.でのデザインコンセプトなどを、深堀りしてお伝えします
・社内コンペも開催したので、その応募案も公開します! BAKE CHEESE TARTの新デザインが出来るまで
・お菓子屋さんのデザイナーって何するの?仕事の一部「期間限定パッケージデザイン」をご紹介
文:名和実咲(@miiko_nnn) 会場写真:平野太一(@yriica)