何かで迷ったときには「今儲かることより、続くこと」を選ぶ。急成長ブランドの背景にある信念

2017.11.09

こんにちは!BAKEインハウスエディターの名和実咲(@miiko_nnn)です。

夏休みに福岡へ旅行した同僚の平野くんが「素敵なお店で食事をしたんです!」と、喜々として話してくれました。

平野くんは、これまでお菓子の専門メディアCAKE.TOKYOの編集者として、100を超えるお店の取材……それも、ダンデライオンチョコレートや、JANICE WONG、ケンズカフェ東京、PATISSERIE ASAKO IWAYANAGI、……といった、筋の通ったお店ばかりを取材しているんです。そんな彼が「ここは本当に素敵だ!」と熱弁しているので、BAKE社内ですっかり話題に。

系列のお店が東京駅にできると聞きつけ、BAKEのみんなで訪れたのですが……味も、デザインも、接客も……あまりにも素晴らしくって、みんなすっかりファンになって帰ってきてました。

「お菓子屋さん?」と思われるかもしれませんが、実は「おだし」のお店。

明治26年に福岡で創業された久原本家さんが営む、茅乃舎(かやのや)です。

こちらは、茅乃舎・コレド室町 日本橋店。隈研吾さんがデザインを手がけられています。

平成17年に福岡にレストラン「茅乃舎」が誕生してから、そのおだしのおいしさが評判になり、ここ10年で急成長。現在は全国21箇所に直営店を構えられています。

4年前に創業したばかりの私たちBAKEには、学ばせていただくことがきっと多いはず…と取材依頼をしたところ、「東京でもお受けできますが、よかったら、福岡のレストラン「茅乃舎」に、いらっしゃいませんか?」と嬉しいお言葉をいだきました!

冒頭で、平野くんが絶賛していた福岡のレストラン。これはぜひ、体験してみたい!と上司に相談したところ…

無事、快諾!!
そんなわけで、福岡に飛び、博多から電車で30分、さらに車で20分……といったところにある、茅乃舎さんへ向かいます。

広がるのどかな田園風景。

さらさらと、せせらぐ小川に、

茅葺きの屋根がのぞきます。

ここ福岡県糟屋郡の久山町に、茅乃舎のレストランがあります。人里離れた山のなかにあっても、予約は1ヶ月先までいっぱいだそうです。

さて、さっそくお店に入ると……季節の花が生けられ旬の野菜たちが彩りよく盛られています。

聞くと、花だけでなく素材そのものを通して、季節を感じられる演出だそうで、こうした心配りはレストランの”おもてなし部門”の方が考えられているのだとか。

おもてなしのきめ細やかさに、料理をいただく前から、嬉しい気持ちが跳ね上がりました。

そして、料理が運ばれてくると、ふわんと立ち上るおだしの香りに包まれます。

博多曲げわっぱに入った前菜5種。小鉢のおひたしは、だしも一滴残らずいただきます。どれも素材の魅力が際立ちます。

かぼちゃのグラタン。ごぼうチップスがさくさくと香ばしいです。だしのきいたグラタンは、洋風茶碗蒸しのよう。

十穀鍋はかつおと昆布のだしをベースに、豚肉とたっぷりの野菜をいただくお鍋です。十穀鍋はかつおと昆布がベースになっているそう。十穀のうまみが染み渡り、豚肉とたっぷりの野菜に、お腹も心も満たされる、なんとも贅沢なお鍋です。

多くは語られなくても、一皿ごとに、否ひとくちごとに、惜しみない手間をかけ、心を込めたギフトのように感じられます。

すっかり前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。

今回THE BAKE MAGAZINEのインタビューに応えてくださったのは、茅乃舎・ブランド企画の齊藤珠美さん。

2007年入社、販売店やレストランで配布される季刊冊子「てまひま」の編集を経て、現在ブランドマーケティング部で「茅乃舎」ブランドを担当。


商品における「こだわり」や「本物」の正体は何か?

「モノ言わぬモノに モノ言わす モノづくり」とは

素敵な昼食を、ご馳走様でした!茅乃舎さんの商品は素材、製法、味、デザイン、何を見ても”本物感”があるなぁと思いました。きっとすごい理念やこだわりが詰まっているに違いない…!と思ってあたりを見回してみたのですが、あまり多くを語っておられない印象で…。

齊藤:そうですね。あえて、大きく打ち出していないんです。というのも茅乃舎には、「モノ言わぬモノに モノ言わす モノづくり」という理念がありまして……

「モノ言わぬモノ」……というのはレストランでのお料理や、だしパックや調味料など、商品のことですか?

齊藤:そうです。そういった商品が本当においしければ、実際に食べてくださったお客様が「あれ、おいしかったわよ」と、お客様の言葉で語ってくださるはず。

宣伝ではなく、商品の力で広まっているんですね!あっ、実際、私も同僚の熱狂的なお勧めによってここに来ています…(笑)。

それに、先ほど食事をさせていただいて、同僚が熱烈に勧めてきた理由がよくわかりました。白米の一粒一粒がしっかり立っていて、ピカピカで、噛むほどに甘くておいしかったです。

齊藤:白米ですね。実は毎朝、その日に使うお米を、籾(もみ)をとって精米しているんです。

え、レストラン内で毎朝お米を精米されているなんて、めったに聞かないのですが、そこまで手間をかけられているとは知らず……。ふつう、こだわりのポイントとして給仕の方が説明されそうなお話ですが、ここにも「モノ言わぬモノの精神」が。

齊藤:そう感じていただけると、ありがたいです。でも、説明するよりも先に「おいしい」を大切にしている、ということもありますね。

新商品をつくるときには、数字のみのマーケティングをするよりも先に、「こういうおいしいものをつくりたい、こういうのがあったらお客様に喜んでもらえるかな」という思いで始まって、「これ、おいしい、こっちもおいしい」みたいに、進んでいくんです。

おいしい、で進んでいく…。

齊藤:そうなんです。後からあれこれ説明するよりも、まず「おいしいものをつくろうよ」という熱意をいちばん大切にしていますね。

齊藤:でも、もっと正直にお話しますと、その熱意やこだわりをWebで発信するところまでは、まだまだ間に合ってない…というのが本音でもあります。 BAKEさんは上手に情報発信をされているから、私たちもすごくチェックさせていただいてるんですよ。

わ、ありがとうございます。こうして、取材で福岡までぽんと行かせてくれる会社なので、あらためて情報発信やこのオウンドメディアには力を入れているんだなぁと…(笑)。

でも、茅乃舎さんは、通販販売や店舗で冊子「てまひま」を配布されていますよね。東京の店舗に伺ったとき、スタッフさんが「てまひま」を手渡してくださり、商品紹介だけでなく、レシピやコラムが掲載されていて、とても面白くって。

年に4回発行される「てまひま」。商品や素材のこだわりはもちろん、季節のレシピや食にまつわるコラムが紹介されています。

齊藤:ありがとうございます。カタログは10年ほど発行しているのですが、最初は商品紹介がメインでした。

ですが、5年前「てまひま」という名前をつけたときから、商品がお客様に届いた後のシーンにフォーカスするかたちに方針を変えたんです。

確かに、おだしや調味料は、お客様に使ってもらって完成するものですね。

齊藤:そうなんです。調味料が生きるには、台所や食卓で使われるところまでを含めて、お客様に情報をお伝えすることが大切だと考えています。

写真や読み物も本当に質が高いなぁと思ったのですが、こちらはどこか制作会社さんと一緒につくられているのでしょうか?

齊藤:いや、「てまひま」は私たち社内の編集、デザイナー、ライターの5名でつくっているんです。社内のクリエイターが日々様々なデザインや企画を手がけているのですが…店舗のPOPやパッケージから、最近は、Instagram(@kayanoya.official)もはじめました。

「てまひま」は見ているだけで、滋味深い料理の香りがしてきそうです。読みものもあるので、時間にゆとりを持って手にとりたいなぁと思いました。

Instagramでは、レシピとお野菜が交互に投稿されていて、どれも野菜や素材の生命力に溢れていますね。

季節の空の色をあしらった、手土産用おだしのパッケージ。繋げるとひとつの空になるそう。


解像度の高さが、強み。店舗での接客が鍵

先ほど、「数字だけを見るマーケティングはしない」といったようなお話をされていましたが、そんな中で、お客様のことを知るために何か取り組んでいることはありますか?

齊藤:基本的にオフィスのスタッフも、一年に何度か、店舗で販売をします。特に繁忙期になると、手伝いに行くのが常識といいますか。

研修で一時的に行くのではなく、お仕事の一部に組み込まれているんですか。

齊藤:はい。全社的に、小売業の基本として、しっかり働きますよ。お客様の生の声を聴けるのはやはり、大きな収穫になります。

生の声って、情報の解像度が全然違いますよね。

総本店の配送カウンター。お中元やお歳暮の繁忙期には本社スタッフもかけつける。

齊藤:そうなんです。どういう人物像の方がどのようなトーンで言ってくださった意見なのか、鮮明です。1日お店に立ってお話をするだけでも、格段に情報量が違います。

社員みんなにその体験があるからこそ、味、デザイン、店舗レイアウトなど、スピード感を持って変えていけますし、新しい商品もつくっていけます。


ブランドの軸は「儲かること」より「続けること」

ここ10年で急成長されている茅乃舎さんですが、愛される商品を生み出し続けるコツ…のようなものはあるのでしょうか?

齊藤:そうですねぇ。コツ…というよりも、ふたつ選択肢があった時に、「どちらのほうが儲かるか」よりも「どちらのほうが長く続くか」を基準に考えています。

続けるために何かをするのではなく、何かするときの基準が「長く続くか」…という感じなんですね。

儲かるよりも、続くもの…。120年を越える歴史ある会社の新ブランドだからこその強さのようなものを感じます。

齊藤:ありがとうございます。でも、ブランドや、ブランディングという言葉を使うと、色々なノウハウがあるように聞こえそうですが…どうしたら料理をつくる人や食べる人に驚いてもらえるか、感動してもらえるか、そしてどれだけおいしさを真剣に考えてつくり続けられるかが、長く続けられるかの鍵になるのでは、と思います。

茅葺き屋根には熊本県の阿蘇地方での刈り取ったものが使われている。丁寧なメンテナンスにより美しく保たれた面をぜひご覧いただきたい。


齊藤:私たちの領域は食、かつ調味料であることは変わりません。けれど、暮らし方や生活スタイルとともに、好みや、必要とされる調味料は変わっていくと思います。

昔は醤油蔵もたくさんありました。20年前には、福岡だけで160の蔵が成り立つほど、家庭での料理にお醤油が使われていたんです。でも今では、その数は約100まで減ってしまいました。

昭和53年に、4代目にあたる河邉哲司が入社したばかりの頃は、まだレストランや茅乃舎といったブランドもありませんでした。当時は社長自らトラックに醤油を積んで、前掛けをして、お客様のもとに一軒一軒足を運んでいたんです。

100年以上の歴史がある中で、ここ数十年は本当に大きな変化をされたんですね。

齊藤:はい。当時どれだけ大変であったか、そんな中でもお客様からのあたたかい言葉が、どんなに支えになったか……私たちが直接体験している訳ではないのですが、何度聞いてもじんわりと心に染みるものがあります。

5年前に移転した本社には工場も併設されています。

醤油を取り巻く環境の変化や、食生活の洋風化…という危機を乗り越えてこられたからこそ、変化に柔軟な今の姿があるんですね。

齊藤:これからも食生活は変わっていくと思います。もちろん、伝統製法を守るように、ひとつのものをつくり続けることも素晴らしいと思います。

ですが、私たちにとって大切なことは、お客様の暮らしとともに変わっていくこと、つまり、お客様の暮らしにあわせて、いいものをつくり続けること。これだけは、変わらないのだと思います。

変わり続けること、と言うと。

齊藤:はい。最近は、はじめて個包装のだしをつくったんですよ。

おつまみ・もてなし・作りおき・味噌汁の4種の箱に、それぞれだしパック7袋と、それを使ったレシピカードが7種封入されている。



落ち着いた色調で、キッチンにおいても調和する。1箱1,000〜1,100円(税込)。

わ、かわいい! しかもティーバッグのように気軽に、おだしを買えるんですね。

齊藤:そうなんです。これは個包装の状態でも販売しているので、好きな組み合わせを選んで、アソートもできるんですよ。

東京駅のグランスタの新店に出したところ、よく手に取ってくださいます。おだしを贈るというカルチャーが、東京駅のお客様に支持していただけているようで、嬉しく思います。

おだしって、一つのものを長く使って、家庭の味になる…というイメージがありましたが、これだと「毎日いろんな味を楽しむ」ということも出来ますね。

齊藤:そうして楽しんでいただけると、本当に嬉しいですね。でもきっと、これからも商品は徐々に変わっていくんだと思います。

どんな仕事もそうだと思いますが、毎回ベストをつくしても、完璧でない部分が見つかりませんか?

確かに…「もっと時間があれば、もう少し良く出来たのに!」と思うことは、正直、よくあります。

齊藤:そうですよね。きっと、私たちのしごとは、それを踏まえて次のベストを目指す、そしてまた次のベストを目指す……の繰り返しです。

凡事徹底という言葉が社内にあるのですが「そこまでやらなくていいよ、そこまでやってどうするの」って、言われそうなことを、うちはとにかく大真面目にやりきるんです。商品も、素材も、同じ考え方ですね。

ものづくりへのひたむきな姿勢や、選択のひとつひとつが、今の茅乃舎をつくっているんですね。とても勉強になりました。




わたしたちも製菓企業の視点で、日々ニュースやインターネット、SNSにある食べもの情報をウォッチしたりしているのですが、今の時代らしいものといえば「フォトジェニック」や「インスタ映え」が主流。

もちろん素晴らしい商品もありつつも、どこかでブランドの意志が薄れていくような様子もあり…おいしいものが大好きな私は、その傾向に心がチクチクと痛みます。

何かしらの商品、サービスを提供する側になると、「ヒット商品をつくれるか?」という期待と、「ブランドが消耗していないか?」という不安は常に表裏一体なのだと思います。

今回、茅乃舎さんでお話をきいて、私達は商品を選んでくださるお客様がいてこそ、商品をよりおいしく保ち、進化させ続けられるんだ…というキホンに、改めて気づかされました。まだ4年目のわたしたちBAKEも、長く愛されるお菓子屋さんになるように。

それぞれの得意分野を存分に生かしていかねば、と改めて感じながら、東京への帰路につきました。

齊藤さん、本当にありがとうございました!


文・写真:名和実咲(@miiko_nnn
編集:塩谷舞(@ciotan


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