こんにちは、BAKEインハウスエディターの名和(@miiko_nnn)です。 本日のTHE BAKE MAGAZINEでは、投資ファンドのポラリス・キャピタル・グループ株式会社(以下ポラリスさん)がBAKE Inc.(以下BAKE)の株式の大半を取得して筆頭株主になること、BAKEの社長交代について、その裏側をお伝えします。
2013年原宿のアパートにて、代表・長沼真太郎が立ち上げたBAKEですが、現在は国内外あわせて50店舗展開しております。今回は、さらなる会社の成長、そして将来の株式公開を見据えた筆頭株主及び代表取締役の変更を行います。
1.創業社長の長沼真太郎が、会長になります。
<長沼真太郎の略歴> 1986年北海道札幌市生まれ。2010年に慶應義塾大学商学部を卒業後、丸紅株式会社の菓子食品課にて流通菓子の国内営業業務などに従事。2011年に同社を退社し、父の経営する「株式会社きのとや」に入社。2012年、新千歳空港店の店長となり、大ヒット商品「焼きたてチーズタルト」を開発。2013年、株式会社BAKE創業し、代表取締役に就任。
2.副社長の西尾修平が、代表取締役社長に就任します。
<西尾修平の略歴> 2003年に株式会社リクルート(現:株式会社リクルートホールディングス)に入社し、人材採用メディアの営業担当、新規事業企画、子会社経営企画等を担当。その後、複数社を経て2010年に株式会社ジェイ・ウィル・パートナーズのアセットマネジメント部門である株式会社ジェイ・ウィル・アドバンスに入社。介護施設、食品卸、温泉旅館等のターンアラウンドマネージメント案件に携わる。2013年1月より株式会社ミクシィに参画。同年7月より執行役員社長室長、2014年6月より取締役経営企画本部長に就任。投資・M&A及びグループ会社の事業統括等に従事。 2016年9月より株式会社BAKEに常務取締役として入社。グループ事業戦略の立案・推進並びにコーポレートファイナンス等を担当。2017年2月に取締役副社長に就任し、現在に至る。
3.ポラリスさんは、BAKEの株式の大半を取得。上場を目指す今後のBAKEの成長をバックアップしていただくことになりました。
<ポラリス・キャピタル・グループ株式会社について> ポラリス・キャピタル・グループ株式会社は、2004年9月に設立されたプライベートエクイティファンド運営会社です。多店舗展開型企業や成長局面にある企業への企業価値向上及び事業承継・株式上場支援において豊富な実績・ノウハウを有しており、経営のプロフェッショナルの派遣を通じた国内外事業のサポート及び上場支援を強みとされています。
設立年月:2014年9月 代表取締役社長:木村雄治 資本金:2億円 事業内容:プライベートエクイティ業 運用ファンド: ポラリス第一号投資事業有限責任組合(出資総額296億円) ポラリス第二号投資事業有限責任組合(出資総額319億円) ポラリス第三号投資事業有限責任組合等(出資総額520億円) ポラリス第四号投資事業有限責任組合等(出資総額750億円)
※以上3点についての詳細は、2017年7月31日に発表したプレスリリースをご覧ください。
4.今回の筆頭株主の変更および組織変更の裏側、そして創業者・長沼のあらたなビジョンを、この記事で詳しくお伝えします。
2017年7月28日。BAKE社内では、日本全国、そして海外各国ではたらく全社員が東京のオフィスに集まりました。「久しぶり!」「焼けたね!」「シンガポールではどう?」などの挨拶が飛び交います。
そして全員が揃ったところで、創業者の長沼真太郎、そしてあらたに8月29日をもって代表取締役社長に就任予定の西尾修平から、社員に話を始めました。
BAKEで海外法人・シェアードサービス本部の本部長を務める春山が、この場の司会進行を務めました。
左から春山、西尾、長沼です。聞き手は、私たちBAKEの社員です。
長沼:今日は大きな転換期を迎えるBAKEについて、組織や経営の観点でお伝えしたいことがあり、日頃はオフィス勤務ではない店舗スタッフや、海外スタッフにも集まってもらいました。
BAKEには、より多くの方に感動あるお菓子を届けたい、ワクワクする人と一緒に成長しながら働きたい、事業をより拡大していきたい…今ここにいる皆さんはそんな志のもと集まってくださっています。
そのために、決断したことが大きく2つあります。
長沼:1つめは筆頭株主の変更、そして2つめは、社長が交代します。 まずは、筆頭株主の変更について。
BAKEは更なる成長を実現させるために、今以上に信用力を高め、柔軟な資金調達の機会を獲得するために近い将来上場を重要な選択肢の一つとして捉えています。 ですが、現在私は父が創業したきのとやとBAKE両社の大株主かつ取締役であり、きのとやはBAKEの重要な取引先の1社でもあります。その中で上場を目指そうとした際に、難しい問題に直面しました。
現状では、私がきのとやとBAKEの取引価格を決めることができてしまうので、BAKEの成長を最優先にした経営判断がしにくい状況にあります。この体制では、スピーディーに規模拡大をしていくための上場という手段を取ることが非常に難しい。よって上場を延期し、ゆっくりとした成長を辿る選択肢もありました。
けれど、果たしてそれは私がやりたかったことなのか……BAKEはずっと成長していきたい、世界にもっと広めていきたい。そして、BAKEに集まってくれた社員は会社の成長を楽しめるメンバーが集っています。成長の手段として上場という選択肢を無くすことはしたくありません。
長沼:現在(2017年8月2日)、私がBAKEの筆頭株主ですが、このままきのとやとの取引関係を維持しながら上場を目指すのであれば、私の持ち株比率を下げる必要がありました。
そして、いくつかの投資ファンドからご提案を受けた中で、ポラリス・キャピタル・グループ株式会社を筆頭株主に迎え、スポンサーとして今後のBAKEの成長をバックアップしていただくことになりました。
春山:同じタイミングでの筆頭株主変更と社長交代ですが、この2つの関連性は?
長沼:全く関連はありません。社長変更に関しては、1年前から意識していたことであり、筆頭株主変更に関わらず、実行しようと思っていました。 8月29日をもって私が会長になり、これまで副社長だった西尾さんが代表取締役社長に就任し、グループCEOを務めてもらうことになりました。
春山:会長と社長の体制を敷くことは、いつ頃から構想していたのでしょうか?
長沼:会社規模によって必要な経営者は違いますし、もともと「マネジメントに長けたリーダーが必要だ」と感じていた部分はあります。
自由が丘オフィスにいた頃*に、毎月のように人が増えていったのですが、すると部長会議がどんどん複雑になっていきました。その時に、マネジメントスキルを持った人が必要だと強く感じましたね。 <*2016年の年末まで自由が丘にオフィスがあり、その後現在の白金台オフィスに移動>
春山:あの頃、真太郎さんのデスクに置いてあった本は、マネジメント関連の本ばかりでしたね。今悩んでいることの現れだなぁ、と思いながら見ていて。
長沼:その通りでした(苦笑)。
春山:2016年9月に西尾さんはBAKEに参画しましたが、当時の印象はどのような感じでしたか?
西尾:本当に、すごかったです。みんなが自分の意見をハッキリ主張していて、なんといいますか、非常にエキサイティングでした。
長沼:あれはあれで面白かったんですよね。組織が変わっていっても、そういうオープンな主張を残していきたい。
春山:西尾さんが入社するとき、将来的には代表になって欲しいとオファーしていたのでしょうか。
長沼:社長の交代を提案したのは、2016年12月の台湾出張のときですね。台湾にある香港料理のレストランで、話をしました。
春山:プロポーズみたいですね。
長沼:それほど緊張感のある空気ではなかったです(笑)。
西尾:オファーを受けたときは、私自身としては今のままの体制がいいと思っていましたし、すぐには返事をできませんでした。
ですが、8月29日をもって変わることになりました。そうはいっても、社内的には今の体制とあんまり大きく変わらないのかと思います。みなさんと一丸となってやっていきたいです。よろしくお願いします。
春山:真太郎さんは、西尾さんをすごく尊敬しているし、期待していますよね。これから新しいBAKEの社長として、西尾さんに期待することは、なんでしょう?
長沼:第一には、組織づくりとマネジメントですね。そこに、西尾さんらしいテーマを加えていって欲しいです。
春山:そんな西尾さんが、真太郎さんに今後期待することは?
西尾:これまでもそうでしたが、やはり新しいお菓子や原材料の開発のところです。ここは僕にはできない領域です。真太郎さんにはこれからもBAKEの0→1を担って欲しいです。
真太郎さんは北海道の工場や牧場で仕事をする機会が多いのですが、僕のように東京中心に仕事をしていると「牛のストレスを解き放て!」といった発言はなかなか出てきません。* *「牛のストレスを解き放て!」=ストレスの少ない牛は美味しい牛乳を出してくれるという観点から、放牧を重要視する真太郎さんの言葉。参考記事はコチラ
長沼:それは私個人の意見ではなく、酪農・放牧の研究をされている多くの方の知見があった上でのものですよ!
春山:「成長」について何度も語られていますが、今後の事業拡大の戦略について、説明をお願いします。
西尾:「日本から海外へ」ということは以前からお伝えしていましたが、より具体的に話しますと、特に東アジアは重要なエリアです。韓国、台湾、香港、中国などBAKEの香港法人が束ねる東アジアにて各事業がどう成長できるかが、その後の海外展開にも影響を与えると思っています。
さらに今はBAKEのシンガポール法人があるのですが、東南アジアと中東への展開の要として考えています。香港法人・シンガポール法人・そして中国本土の事業開発を行う上海法人にはこれまで以上に大きな裁量権を持ってもらい、事業成長につなげてもらうことを期待しています。
またBAKEの各海外法人を管掌する日本法人の執行役員を春山さんに担当してもらうことになりましたので、どんどんスピードアップしてもらいたいと考えています。
春山:しっかり守ります。国内はどうでしょう?
西尾:新規出店も商品開発も力をいれますし、売上や利益、数字の部分は今まで以上に追及していきます。売上はお客さまからの拍手の数だと思っています。拍手=賞賛がなければ売上は得られません。そして、利益は知恵と工夫の結晶だと考えて欲しいんです。利益は売上-コストで生まれます。コストは知恵と工夫で健全に節約できるものだと思うのです。
春山:続いては今後の経営方針について、発表をお願いします。
西尾:「ART X CRAFT X SCIENCE」を経営方針にします。
アートとクラフトはBAKEの強みで、これまで優位性を獲得してきた要因です。特にアートは競争優位の源泉で、店舗やパッケージのデザイン、ウェブ、コーポレートブランディング….…お客様の触れるものすべてをBAKE社内外のクリエイターが主体となって生み出してきました。 そのアウトプットを直感的に「素敵だな」と感じていただける、そんな力を持っている会社だと思っています。
春山:クラフトについてはどうでしょう?
西尾:クラフトについてはプレスバターサンドの時にひらめいたことですが、「スモールバッチ」がわかりやすい例ですね。もとは「選び抜かれた、少量しか生産できないウイスキー」についての言葉ですが、BAKEでは大量生産が主流の流通菓子の中に置いても、あえて手間をかけて美味しさを追求し、一つの商品を作り上げていきたいんです。
通常、スモールバッチは少量生産で限られた規模で展開していることが多いのですが、BAKEではスモールバッチでありながら、あえて多店舗展開にチャレンジしていきたい。機械で作ると手作業よりももっと美味しくなるのであれば、機械の導入を検討するべきです。そこがいわゆる街のケーキ屋さんと差別化していくポイントですね。
名和(スタッフ):実際のところ、クラフト(手作り)を重要視したお菓子ブランドは既に多くあります。BAKEはチーズや牛乳などの原材料の開発から着手して、よりオリジナリティを強めるということでしょうか。
西尾:はい。まだまだ今後の課題でもありますが、その通りです。たしかに、クラフトを重要視したお菓子ブランドは多くありますが、そのこだわりを多店舗展開、もっと言うと日本発で一気に海外展開できるスピード感をもった会社はなかなか無いのではないかと考えていますし、私たちの戦略上の優位性であるとも考えています。このあたりは、今後も真太郎さんと一緒に進めていく部分ですね。
春山:サイエンス、はどういう意味でしょうか。
西尾:サイエンスは会社や事業を科学する…という意味ですが、正直な話、今のBAKEのウィークポイントだと捉えています。ここは、ポラリスさんにもご協力頂きながら定量分析を強化することによって、改善していきたい部分です。 BAKEは今後数年で、現在の50店舗から、数百店舗に増やしていこうと考えています。
そんな中で、何かを判断をする上での理由は「なんとなく」ではなく、その理由を数字でも示す(サイエンスする)ことが求められていきます。これは、アートやクラフトと掛け算したときに100万倍のパワーを得るためです。
春山:ポラリスさんからの支援が入ることによって、何か大きく変わることってありますか?
西尾:一番大きな変化は、経営と執行の分離を明確に進めていくことになります。これは株式上場を目指す上で、必要な変化です。
ポラリスさんから取締役に数名入っていただき、経営面、とくに経営戦略の立案や財務管理機能に関してはサポートしていただきたいとお願いしています。ただ、クリエイティブやお菓子の味に関するところはもちろんBAKE社員に任せて頂けるという話をしていて、ここは今まで通り、BAKEが全てを担っていきます。
春山:今回の筆頭株主変更は、基本的にはポジティブな変化、と捉えていいものでしょうか。
西尾:そうですね。私は前々職では投資ファンドの運営会社で働かせて頂いていましたが、ポラリスさんは日系投資ファンドのトッププレーヤーとして、業界内でも一目を置かれる存在の一社だと認識しています。
長沼:数ある投資ファンドの中で、ポラリスさんは飲食企業、そしてスタートアップ企業、その両方を成長させて上場に導いた実績がありますし、BAKEとしても心強い存在です。
舩元(スタッフ):逆に、ポラリスさんからBAKEは、どのように評価されているのでしょうか?
長沼:ポラリスさんに限らずですが、よく外から評価されるのは、人材の豊かさです。 「お菓子業界で、これほど様々な業種からポテンシャルを持った人が集まっている会社を見たことがない」と。BAKEという会社のメンバーについて、私の想像以上の言葉をいただくことが多いんです。
西尾:強みについては、僕も全く同じ意見を聞きます。仲間が高く評価されて、ものすごく自信になりました!
逆に弱みとして挙げられることは、全てのブランドがシングルオペレーションで、商品の寿命が短いのではないか…と懸念されていることです。一過性のブームではないか? という点ですね。ですが、チーズタルトほか、すべての商品は深く愛していただけるもので、けっしてゼロになることはないと思っています。 一方で、新しいブランド開発や季節限定のフレーバー、グローバルな展開など、日々新たなアクションを起こしていくことは必須です。
春山:では最後に、今後のそれぞれの仕事についての抱負をお願いします。まずは真太郎さんから。
長沼:引き続き、私は北海道と東京での商品開発にコミットしていきます。 そして……牧場ですね。これは明確にやりたくて、もうライフワークにしたいほどなんです。私は北海道に生まれて、祖父も父も、いっときは酪農家だったんです。でも、数年で畳んでしまいました。そして父はお菓子屋「きのとや」を始めました。
長沼:今、乳業界は大きな変化の時期に差し掛かっています。私がこの時代にチーズや牛乳を取り扱うお菓子屋をやっていることは、たとえ偶然でも、大きな意味があると確信しています。牧場計画は、時間はかかります。でもその取組みは、確実にBAKEを進化させていきます。
春山:ありがとうございます。では、西尾さんは?
西尾:真太郎さんのコピーをするという訳ではなく、大切なものを引き継ぎながら、また違った社長像を目指したいと思っています。
ですが僕が副社長から社長になるということで、劇的に変わる訳ではありません。ただ、これまで私が担ってきた仕事を少しずつ他の人に任せていって、僕はもっと未来のことを考える時間を増やしたいですね。
あとは今まで以上に店舗に足を運んで、みんなに、直接お礼を言わせてください。みんなの気持ちが一つに束ねられたら、と思います。誰一人、辞めてもらっちゃ困るなぁ。月並みですが、頑張ります!
ーーこの会での発表は、BAKEにとってとても大きな出来事でした。でも役員・本部長陣がそれぞれの役割を覚悟しつつ、ポジティブに考えていて、空気は終始なごやかでした。
BAKEは今、大きな変化の中にいるんだということを、一社員としてもヒシヒシと感じます。記事ではお伝えしきれていませんが、この会では何度も「スタッフ一人ひとりが生み出す価値」について言及されていたため、背筋の伸びる思いでした。
その日の夜、BAKE社内で半期のお疲れ様会が開かれました。
今期の社長賞としてPRESS BUTTER SAND店長の山本さん、国内事業開発部の今野さんが表彰されました。
全員ではありませんが、今のBAKE社員はこんなに大勢!2017年7月28日の写真です。(真太郎さんは途中で北海道に行ってしまい、写真には写っていません…) 一方、2013年4月の集合写真。当時はまだ3人でした。この4年間で、ずいぶん大きくなりました!
これからもTHE BAKE MAGAZINEでは、BAKEについての情報をお届けしていきます。たくさんの方がBAKEを知ってくださる一助になれば幸いです。
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執筆:名和実咲(@miiko_nnn) 編集:塩谷舞(@ciotan)・池田彩花 撮影:平野太一(@yriica)