こんにちは! THE BAKE MAGAZINE編集長の塩谷舞(@ciotan)です。 私は日々、取材でいろんな会社や組織にお邪魔するのですが…… 一歩足を踏み入れた瞬間に 「あ、良いな、人が生き生きしているな」 と感じる会社は、そりゃもう特別にすばらしいんですよね。誰にお話を聞いても面白い。 そんな会社は、みんなが未踏である領域にワクワクと事業を拡大していたり、他にはないユニークなアイデアを成功させることに長けていたり。 この日、私たちが訪れて「あ、素敵だ!」と心がパッと明るくなったのは、東京、蔵前にある『ダンデライオン・チョコレート』。とにかく、ここで出迎えてくれた方々の笑顔がちゃんと生きていて、とっても魅力的なんです。 そんなDandelion Chocolate Japan株式会社の社長は、堀淵清治(ほりぶちせいじ)さん。 堀淵さんは、あのブルーボトルコーヒーの日本上陸も手がけている「目利き」であり、日本の飲食業界にあたらしい風穴を開けている実業家。でも、その空気はとても朗らかです。このお店に入ったときに感じた、やわらかな空気とも似ているような。 2010年にサンフランシスコで生まれ、クラフトチョコレート業界に革命をもたらしたBean to Bar専門店・ダンデライオン・チョコレート。アメリカで絶大な人気を誇る気鋭のチョコレートブランドを、まずは2016年に「海外初上陸」させたのが堀淵さんであり、その「海外一号店」がここ東京・蔵前のお店です。 その後、鎌倉、そしてなんと伊勢神宮外宮前にもお店をオープンされています。三重県の志摩半島にある、伊勢湾にほど近い立地。こんな場所です。 新宿、東京駅、池袋、博多、梅田、そしてシンガポールに台北、バンコクにソウル……と、主要都市部ばかりにお店を展開しているBAKEからは驚きの立地なのですが、ダンデライオン・チョコレートさんの伊勢外宮前のお店も、鎌倉のお店も大繁盛。ちょっと、不思議な盛り上がりを見せているのです。 これはやっぱり、ブランド力のなせる技、なのでしょうか?それとも、 一度食べるとどうにも病みつきになってしまうのでしょうか。 「堀淵さん、どうかお話を聞かせてください!」 と、BAKEの副社長である西尾が、ダンデライオン・チョコレートさんを訪ねたのでした。 BAKE副社長である西尾修平。グループの事業戦略の立案や、CFO業務を担当しています。前職はミクシィで取締役をしていたのですが、お菓子の味と可能性に惚れ込んでBAKEにやってきました。
西尾:今日はもう、お聞きしたいことがたくさんあるんです。伊勢外宮前にも、鎌倉のお店にもお伺いしたのですが、どこも大にぎわいで……。とくに、伊勢外宮前のお店には朝10時に行ったのですが、10時から人がわーっと入っていく。人口の多い町ではないのに、そんなことになっていて、とてもびっくりしました。 一体どういう狙いで、こんなユニークな場所への出店計画を立てていらっしゃるのでしょう? 経営者のはしくれとしても、堀淵さんのお考えにとても興味があるんです。 そしてなにより、堀淵さんがこの会社に、どんな人を集めようとされているのか…。 堀淵:最後のポイントからお話すると、人が会社のすべてだと思っていて。きっと、今BAKEさんが上手くいっている理由は、人だと思います。 西尾:人、は確かにそうですね。採用活動をされる上で、堀淵さんが重要視しているポイントとかはありますか? 堀淵:人柄ですね。それを1度、2度の面接で知るには、やっぱり見た目です。見た目が最も重要です。 西尾:えっ。 堀淵:見た目といっても、美人とかかっこいいとか、そういうことではなく……body and mindは一体ですから。心の綺麗な人は、そのまま顔に出るんです。 もちろん、基本的なWordやExcelのスキルがなきゃダメだとか、英語が喋れたほうがいいだとかありますが、基本は、見た目の印象。接客スタッフだけではなく、みんなです。 西尾:前職の経歴などは? 堀淵:最終面接をしている僕は、履歴書はほぼ見ないです。名刺や履歴書だけで判断することの方が、間違いだと思うんです。 西尾:なるほど…でも、僕たちも、気持ちのいい人と働きたい、と常に採用の時は気をつけています。 堀淵:そうでしょう。成功している会社、中小企業だけど面白いことやっている会社は、みんな社員が素晴らしい。人が素晴らしい。 僕たちも、去年2月にここをオープンして、12月に伊勢外宮前店、今年2月に鎌倉店、そしてその間に本所工場もオープンしました。となると、わっと人が増えましたので、日々思いをどうやって伝えるか、ということは悩んでいますね。 塩谷:でもここは本当に、お店に入った瞬間の空気が違います。とても清々しくって。 堀淵:ありがとうございます。僕もアメリカにいるときに「かっこいいお店が出来た」と聞いて、ダンデライオン・チョコレートに行ってみたら、そりゃもう、すごく面白かった。チョコレートを店頭で作っていて、いろんな意味で新鮮でした。
堀淵:そこで「オーナーは誰だ?」と探して、創業者のトッド・マソニスに話をしに行きました。。「日本にぜひ持っていきたいんです」と伝えて。 西尾:そうすると? 堀淵:「まだ会社も出来て2年目だし、日本なんて考えられない!」と言われました(笑)。でもそこを、いろいろと説得しまして。イコールパートナーシップでぼくと彼らの合弁会社であるDandelion Chocolate Japanを創ったんですよ。 西尾:堀淵さんが、ご自身でリスクを取ってらっしゃるんですか。すごいですね……。以前日本で代表をされていたブルーボトルコーヒーのときは、アメリカ側の資本ですよね? 堀淵:ブルーボトルは日本にくる前からもう、大きな会社でしたからね。そういう意味では、あの時は日本での会社設立、物件探し、デザイナーや建築家のディレクションやプロモーションなんかの全般をやっていて。 一方今回は、投資家集めから始まってね。本当に、理解ある投資家の方々が集まりました。そして何よりもダンデライオン・チョコレートの創業者であるトッドが本当に、いい奴なんですよ。本当に! 西尾:どんな方なんでしょう? 堀淵:実は彼、学生時代にダンデライオン・チョコレートを一緒に立ち上げたキャメロン・リングと共同で名刺交換アプリの事業を立ち上げ、その後コムキャストに事業を売却し、典型的なスタートアップ成功パターンを成し遂げた人なのです。 西尾:スタートアップの経営者だったんですね! 堀淵:そう。そのあとに、自分の好きなことをやりたいといって、クラフトチョコレートのお店を開いた。もともとのビジネスの成功や商才もあったので、チョコレート屋を始めるといっても、投資する人がいたんです。 西尾:それは、日本ではなかなか珍しいですね。小規模なお菓子屋さんに投資家がつく、というのは。 堀淵:そうです。そういった「面白いから投資しよう!」という、シリコンバレーや北カリフォルニア的なビジネス、システム、環境があるからこそ生まれたのがダンデライオン・チョコレートです。 あちらは、伸びしろのあるだろう事業に投資する文化がある。UberやAirbnbも、今でこそあれだけ立派になりましたけど、最初の頃は本当に、ほんとうに、こじんまりしていた。 空いてる家を人に貸すとか、自分の車を使って空いてる時間に運転する……そんなシンプルなことをシステム化しようというだけで、はじめは「こんなものがいけるのか?」と思っていました。すると、2〜3年でどちらも何兆円という規模になって、既存のビジネスに影響を与える存在になりましたよね。 堀淵:アメリカには、この急成長のダイナミズムを面白いと思って投資する人たちがいるし、新しいものを受け入れてくれる成熟した市民がいます。これは投資家にも、市民にも、かなりの民度がないと実現しません。 塩谷:たしかに、日本だともっと保守的ですね…。 堀淵:とはいえ、トランプが大統領になっちゃう国ですから、何が起こるかわからないですけどね。
西尾:堀淵さんは、アメリカと日本に、どれぐらいの割合でいらっしゃるんですか? 堀淵:1ヶ月ごとに行き来しています。4週間こっちにいて、4週間サンフランシスコにという感じで。 西尾:アメリカと日本のダンデライン・チョコレートの関係性は? やはり、あちらが諸々のルールを決めていかれるんでしょうか。 堀淵:サンフランシスコでダンデライオン・チョコレートというブランドが生まれて、僕らもそこへのリスペクトが根底にある前提ですが、トッドがオープンマインドで素晴らしい。 「日本では、日本なりのものが必ずできるはずだ!」 と言って、ほったらかしだからね。だからもう、好きなようにやらせてもらっていますね。 西尾:伊勢外宮前に出店したり。 堀淵:そうそう(笑)。「2店舗目は伊勢にしようと思う!」と言ったら、ある人からは「経営者として無責任だ!」って言われてしまいました。前例がないし、立地的にも、売れる保証がないですからね。 でも、僕は千載一遇のチャンスだと思った。鎌倉もそんな感じで。
西尾:鎌倉のお店も、栄えている鎌倉駅の東口じゃなくて、閑静な西口のほうにありますよね。 堀淵:「人通りの多い東口に出店しませんか?」といわれても、そこは興味が湧かないんですよ。 それよりも、西口にあったあの物件がとても気に入ってしまって。日当たりも良いですし。借りられないかずっとオファーしていたんだけど、なかなか難しかった。でもある日突然、想いが届いたんです。 この蔵前店も、前に公園があるから選びましたが……やっぱり、働く人にとって気持ちいい環境を作るというのが、最初ですね。その次に、お客さんです(笑)。 西尾:勉強になります。 堀淵:いやいや、逆に僕は、BAKEさんに海外進出のことを教えて欲しい。僕、台北がすごく好きで。台湾の人々って素晴らしいですよね。すごく個人的なモチベーションなのですが、台北にに興味があるんです。 西尾:台湾には、台北にBAKE CHEESE TARTとクロッカンシューザクザクを、そして台中と高雄にもBAKE CHEESE TARTを出店しているのですが、本当に、とても良い場所ですね。日本のスイーツが「こんなに受け入れてもらえるなんて!」とびっくりしています。
しかも、SNSの利用率が日本よりもずっと高くて、ひとたび話題になると拡散力がすごいんですよ。 堀淵:台湾はSNSも、Eコマースも発達していますよね。小さなブランドも、みんな使いこなしていて、日本以上に進んでいる。あぁでも、台南もいいですね。南のほうにも、独特の良い文化がある。 西尾:いいところですよね。ごはんも美味しいし、出張で訪れるBAKEのスタッフみんな、癒されています(笑)。 でも、やっぱり特にBAKEが特に大きく成功しているのは、韓国とシンガポールですね。輸出関税もあるので、どうしても日本よりも単価が高くなり、向こうの相場ではかなりの高級スイーツになってしまうのですが、世界中のBAKE CHEESE TARTの中でもシンガポールは抜群に売り上げが高いんです。 堀淵:高くても、でも、美味しいから売れるんだ。そういうことですよね。 堀淵:BAKEさんは、大きな駅前にドーンとお店を開くでしょう。お菓子屋が多くの人に届けるためにビジネスをどんどん広げるというのは、新鮮ですよね。みんな真似するんじゃない? 西尾:そうですね。特にアジアでは、近しいお菓子屋さんも増えています。 僕らはできるだけお店も増やして、多くの人に届けようとしているのですが……そのかわり、売るお菓子は1つに絞り込んで、その1つを徹底的に磨くようにしていて。 堀淵:それがかっこいい。職人的アイデアというか、潔いよね。オーナーは、男らしい方じゃないですか? 西尾:そうですね、代表の長沼は、ハッキリしたタイプですね。 塩谷:野球部で、ストレートしか投げない!というような感じの人ですね!
堀淵:いいですね。僕は、実はアメリカに42年も暮らしていてね。最初の10年なんて、アメリカの山の中に住む、本格的なヒッピーだったから。 西尾:そうなんですか! 堀淵:10年もヒッピーやっていたんですけどね、小学館のオーナーにたまたま出会って、アメリカで漫画やアニメを広める会社を立ち上げることになって。20数年その会社をやって、社員数150人くらいの規模になり、アメリカに日本漫画が浸透していきました。 堀淵:その時やっていたのも、どのようにして日本の文化を海外に移植するか、というトランスレーションのカルチャービジネスなんですよね。 カルチャーを移植するっていうのは、ものすごく難しい。けれどもその楽しさをもっと広げたくて、「NEWPEOPLE」っていう会社を創ったんです。 西尾:どんなビジネスを? 堀淵:漫画やアニメだけじゃなくて、音楽、ファッション、フードも含めて、日本のカルチャーをアメリカにトランスレーションする会社です。サンフランシスコにも、僕のプロデュースしたビルがあって。その頃にブルーボトルと知り合いました。 ブルーボトルはそもそも、日本の喫茶店カルチャー、日本の面白いコーヒーカルチャーに触発されているんですよ。そんな彼らからの刺激を受けて、僕はブルーボトルを日本に持っていくことにした。 塩谷:山の中暮らしのヒッピーから、実業家へのキャリアの変遷がスゴいです…。 堀淵:キャリアといったって、社長しかやったことないですからね。会社経営のことは、まだまだ…。ものをクリエイトしていくことが好きで、楽しいです。ただ、それを維持することがどれだけ大変かっていうことは常に、学んでいる最中ですね。 塩谷:ダンデライオン・チョコレートさんも、店舗数をこれからどんどん増やしていかれる予定はあるのでしょうか? 堀淵:うーん、店舗数をどんどん増やして、利益をあげて……というのは、あんまりやりたくないなぁ。そうすると、仕事になっちゃう。 塩谷:今は、仕事じゃないんですか? 堀淵:できるだけ「仕事」じゃなくて、いろんな意味でのライフワークになるようにね。自分も社員も、仕事になるとモチベーションが保てない人間ですから(笑)。 西尾:いやぁ、僕自身のコンプレックスを、かなり刺激されるお話ですね……。 僕は、ものを創ったり、伝えたり、届けるところにものすごく憧れがある一方で、金勘定や計算が前に出ちゃうタイプで。だからこそ、ダンデライオン・チョコレートさんのようなカルチャーのあるお菓子屋に、ものすごく憧れがあります。 堀淵:西尾さんはCFOですよね。基幹産業になるような大きなビジネスっていうのは、CFOがビシッとしてなきゃダメですよ! CFOが中心にいないと、会社っていうのは信用ならない。いやむしろ、うちもCFOに誰かいい人いないかな……と思うくらい。僕には出来ないことですから。 西尾:頑張ります…!
西尾:ちなみに、アメリカには数あるBean to Barのチョコレートブランドの中で、どうしてダンデライオン・チョコレートを選ばれたんでしょう? 堀淵:選ぶ……というよりも、マーケティングはゼロだからね。 西尾:えっ、たまたま? 堀淵:出会いがあったからですね。各ブランドをチェックして、比較して、調整して……ということにあまり意味を感じません。それをやってしまうと、迷っていくだけだから。 数字的な裏付けは後でいいと思っているし、マーケティングなんて、むしろいらない。まずは感性で「良い!」と思えるかどうかですね。 もちろん、2、30年前はそうじゃなかったかもしれない。でも今の時代は、もっと混沌としているでしょう。 突然何が起こるかわからない時代に、何を信用するか、という話ですよね。そこでマーケティング調査とか、国勢調査とか、支持率とか……そういうものを、信用していないんです。 今大事にしなきゃいけないのは、自分の感性だと思いますね。「これが本質だ」と思うものを、信じるしかない。欲望です。快楽原則で動くといいんじゃないかな、とかね。 アメリカでダンデライオン・チョコレートのファクトリー&カフェに初めていったとき、「これ以外ないな」と思っちゃったんです。割と一目惚れするタイプでして…(笑)。 塩谷:いやいや、ブルーボトルコーヒーに、ダンデライオン・チョコレート。一目惚れの精度が高すぎません?! 西尾:……なんだか、自分の中の常識を一つ変えられるようなお話ですね。もっと新しいマーケットを創って、というお話かと思ったら、生き様が会社になっている。商売を少し超えちゃってる感じというか……少なくとも、自分にはなかった考え方です。 でも、こうして「お会いしたい!」という欲望でお邪魔できたのは、快楽原則かもしれません(笑)。 塩谷:西尾さんが、明日からガラッと人柄変わってたらどうしよう。 堀淵:BAKEさんは拡大しているんだから、ちゃんとCFOが数字をみていかなきゃダメですよ!僕みたいにならないようにね(笑)。 西尾:いやぁ憧れますが……頑張ります(笑)。今日は本当に、ありがとうございました! ーースタートアップマインドを持った、2つのお菓子屋さん。けれども、ダンデライオン・チョコレートさんとBAKEでは、企業文化もビジネスモデルもまるで違います。 でも、なによりも、人が大事。そして、これまでのお菓子屋さんらしいスタンダードから外れていくこと……など、同じ時代らしい共通もあり、嬉しくなりました。 ファクトリーにもなっているダンデライオン・チョコレートの店舗は、ファクトリー一体型の店舗で焼きたてを提供するBAKEのコンセプトにも通じるところがあります。
ダンデライオン・チョコレートの、お菓子にまつわるお話は、BAKEが運営しているもうひとつのメディア「CAKE.TOKYO」でもお伝えしています。ぜひそちらも、ご覧ください! →CAKE.TOKYOの記事を読む Text by 塩谷舞(@ciotan) Photo by 平野太一(@yriica)
・1ヶ月あたり600万の経費削減に成功!でもそれだけじゃない、BAKE「購買部」の仕事 ・【号外】日本発の商品が、タイの国民的スイーツとしてこんなにも愛されていた…!