美大を卒業して、制作会社で働くか、メーカーのインハウスデザイナーになるか、それともフリーランスになるか? 今日ご紹介する長沼有紀(通称:ユキさん)はその全てを経験して、現在お菓子メーカーBAKEのアートディレクターとして活躍しています。
こんなお菓子のパッケージや、WEBデザイン、コスチュームまでトータルでデザインするのがユキさんのお仕事。 でもその昔は、フリーランスのアーティストとしてパリの百貨店のショーウィンドウに作品を飾ったり、リッツカールトンなどの名だたるブランドとコラボレーションをしていたことも。 そんな彼女に、新卒で入った制作会社でのこと、フリーランスでの活動、そしてインハウスデザイナーとして働く現在のことを聞きました!
ーユキさんは、大学時代はどんなことをされていたのでしょう? 私は東京造形大の視覚伝達デザイン専攻に在籍していました。わかりやすく言えばグラフィックデザイン専攻なのですが、立体も、平面も、様々なデザイン制作を少しずつ勉強することができる学部で。専門家というよりも、マルチなクリエイターを輩出しているようなところです。 大学卒業後は、フランスに本社のあるブランディング会社にデザイナーとして就職しました。そこでは化粧品や食品、飲料などのデザインを請け負っている会社で、大きなクライアントのお仕事をすることも多々。新商品のブランディングを考えるところから、実際に手に取っていただくパッケージまでトータルに携わることが出来るし、先輩からもたくさんのことを教えていただいて、デザイナーとして様々な経験を積むことが出来ました。 でも4年お勤めして、キャンドルアーティストとして独立することにしたんです。 ー他の制作会社への転職ではなく、デザイナーとしての独立でもなく、キャンドルアーティストですか…! そうなんです。やっぱり制作会社で働いていると、たくさんの経験を積むことは出来ても、自分が愛情を込めて創ったものの行く先を見ることが出来ないのが悲しくて。制作したものを、しっかり届けるところまで果たしたかったんです。 だから独立してからは、キャンドルの制作はもちろん、パッケージやフライヤーもデザインしたり、百貨店の売り場でお客様とお話ししたり…。その全ての営みが、とっても楽しくて、やり甲斐を感じました。 『LICCALOCCA Candles』というブランド名で、ひとり千駄ヶ谷にアトリエを構えてのスタートでした。もちろん最初は小さな規模だったのですが…お客様のオーダーと共にブランドを育てていくこが出来ました。
ーすごく素敵な生活ですね…! とっても楽しかったんですよ。でもね、そんな時にいきなり、実の弟が北海道から、千駄ヶ谷のアトリエに転がり込んできたんです(笑)。それがBAKEの社長、長沼真太郎さんですね。真太郎さんは「お菓子のスタートアップを立ち上げるんだ!」といって、毎日チョコレートの試作品を作っていました。その奮闘ぶりがなんだか楽しそうで、こっちまで影響されちゃって。 面白そうだから、私もデザイナーとして手伝わせてもらうことになったんです。次々新しいサービスを立ち上げると聞いては、WEBサイトやフライヤーなど、様々なデザインを制作しました。でも、そのサービスが成功するかどうかなんて、誰もわかりません。いつ潰れるかもわからない……怖いですよね。 そんな状態でも協力出来たのは、実の弟だから、というのが大きいかもしれません。きっと真太郎さんの方も、他のデザイナーさんには頼みづらい状態だったんじゃないかな、って思います。
ーすごい。スタートアップの立ち上げ時って、デザイナーとエンジニアの協力は絶対必須ですが、その人材と出会うことってとても難しいですよね。エンジニアとの運命的な出会いも含めて、BAKEはとっても幸運ですね。 その後BAKEにもデザイナーさんが入社して、少しずつ軌道に乗り始めてきました。私はというと、どうしてもNY留学に行きたくて、しばらくBAKEのお仕事からは離れることにしたんです。アーティストとして視野を広げたくって。 でもね。NYに到着して、美術館でアート作品を観て、美大に通って……そんな毎日を過ごしているうちに、洋菓子屋さんを巡るほうがずっと楽しいことに気づいちゃって! NYの洋菓子屋さんって、とても素敵なんです。でもね、東京で立ち上がったばっかりのBAKEだって、全然負けない。むしろ、あんなにお洒落でエネルギッシュなお菓子屋さん、まだNYにもないかも知れない。
そんなことに気づいて「私は本気で、お菓子屋さんのデザインがしたい!」って決意して、日本に帰国したんです。そしたらビックリ。「PICTCAKE」や「クロッカンシューザクザク」の大成功で、BAKEは信じられないくらいに大きくなってるし、取材は絶えないし…。なんだかもう、浦島太郎みたいな気持ちでした。
ー浦島太郎(笑)。でもそこから、BAKEに入社されたんですよね? ええ。やっぱり、キャンドルアーティストと並行してやっていくことは難しいですし、どんどん拡大するBAKEに、私も全力でコミットしたかったんです。ただ父には「弟とビジネスだなんて、やめておいたほうがいい」と言われたんですけどね。でも、真太郎さんは子供時代からリーダー気質だったし、今も良い関係で仕事が出来ているな、と思います。
ー制作会社で働いて、キャンドルアーティストとして活躍されて。そんなユキさんが感じる「お菓子屋さんのデザイナー」の良さって何でしょう? BAKEに限ったことかも知れませんが、もう「なんでも出来る!」ってことですね。新規ブランドもどんどん立ち上がるし、やりたければなんでも作ることが出来る。リスクよりもチャレンジを重要視している社風ですから、「これはダメ」ってことが何もないんです。 そして私が気に入っているのは、実店舗の上に事務所があるから、お客様の様子を見ながら働ける、というこの環境です。お客様の様子を毎日自分の目で見て、新しいデザインを考えられるのは、やっぱり制作会社では叶わなかったことです。 デザインに関わらず、マーケティングやPR、それぞれの専門領域は各専門家に任せて、自分の専門領域で新しいことを目指せるところが、BAKEの社風。 まさか弟の会社で働くことになるとは思わなかったですが、アーティスト時代とはまた違った新鮮な出会いがあって、毎日が楽しいです。 ーユキさん、ありがとうございました! Text by 塩谷 舞( @ciotan )
・「お菓子のスタートアップ」を立ち上げて丸2年。1人から120人に増えたBAKEのこれまでと、今後のミッション(長沼真太郎)
・BAKEの全8ブランドがランウェイに!パフェやアップルパイ、チーズタルトたちのファッションショー
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— 株式会社BAKE (@bake_jp) 2016年6月2日